日本サンゴ礁学会誌
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総説
気候変動下におけるパラオ共和国のサンゴ礁保全
栗原 晴子渡邉 敦
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2019 年 21 巻 1 号 p. 35-47

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抄録

パラオには限られた国土の中に多様なサンゴ礁環境が存在し,世界有数の生物多様性を誇る。これら環境資源を利用した観光産業を基盤として,パラオの社会経済は成り立っている。しかし,気候変動による影響が進行する中,近年の観光客の急増も伴い,ローカルな環境負荷の増大が報告されており,サンゴ礁環境への複合的な影響が懸念されている。今後,生態系を基盤とした持続可能な社会をいかに実現させていくかが,パラオにとって大きな課題となっている。海洋環境資源の持続可能な利用をめざす上では,現行の環境状態に将来予測される気候変動による影響を加えた状態を「ベースライン」とした上で,重畳するローカルな環境負荷に対してどのような環境政策を講じていくかが重要だと考えられる。そこで,本論文では,気候変動下における小島嶼国の適応策のあり方を検討するために,温暖化,海面上昇および酸性化とパラオサンゴ礁との関係について,これまでの科学的知見を元に,気候変動下での「ベースライン」を提示することを目的とした。その結果,パラオでは他のサンゴ礁海域に比較して,海洋環境は健全な状態に維持されており,現在までのところ白化に対する回復力が比較的高く保たれており,およそ10年以内で大規模白化から回復可能なことが示唆された。また多様な海洋環境が維持されていることに起因して,海域によっては今後50~100年後に予測される酸性化や温暖化環境に対してもある程度適応可能な性質を有するサンゴが維持されている可能性が示された。加えて海面上昇に対する適応力も高い可能性が示された。パラオサンゴ礁で,このような健全な環境と高い復元力と適応力が維持されてきた要因として,海洋保護区や環境税など国家的な環境政策が大きく関係していると考えられ,パラオ国民の環境保全に対する意識の高さが大きく寄与していると考えられる。今後パラオなどの島嶼国において持続的な社会を実現していくには,気候変動を加味した上での長期的な戦略に基づいたローカルストレスの対策により,健全で回復力の高いサンゴ礁環境を維持していくことが,益々重要となってくると考えられる。

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© 2019 日本サンゴ礁学会
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