抄録
日本型水稲の茎数に関与する分げつ性について, 分げつ出現様式や分げつの生長過程を中心に解説した. 水稲の, 実際の生長を詳しく観察すると, 抽出中の葉より3枚下の葉の葉鞘から分げつが出現する規則性は保たれるが, 同伸葉理論とはズレが生じることは広く知られている. このズレを含めた形で, 水稲の生育を解析する方法を紹介した. すなわち, それぞれの分げつの生長を表すのに葉齢を用い, 同伸葉理論通りの生長を仮定して再構築した生長との差によりズレの大きさを表現し, 生長を解析する方法で, それを用いたいくつかの解析例をも示した. 続いて, 葉齢を用いて行う解析の基礎となる, 葉齢と個体の生長とに関する知見をまとめた. まず, 分げつ芽の分化発達の過程を, 母茎葉の抽出程度で判断できるように整理し, 続いて, 止葉抽出完了時を起点として遡って数えた葉齢を補葉齢と呼び, 幼穂分化と補葉齢との関係をまとめた. さらに, 休眠後に再生した分げつの出現時期と出現節位, その葉数から, 分げつ芽が生殖段階に移行してから休眠した場合には, 初期には再生しやすいが, 分げつ芽としての老化が早いこと, 一方, 栄養生長段階のまま休眠した場合には, 初期には再生しにくいが, 時間がたっても再生力を維持していることを述べた. また, 分化した後に休眠した葉は, 休眠期間が長いと完全な形での形態形成能力を失うことについてふれた.