抄録
水稲苗は移植に際して根の損傷などによって植傷みが生じ, その後, 新根の伸長などによって生長が回復して活着することが知られている. 本研究では, 移植時に断根された苗における冠根の形成·出現の様相を形態学的に明らかにすることを目的として, 葉齢3.2の苗を, 出現根を基部から切除して移植, 葉齢7.2の時に個体を採取して, 茎の連続横断切片を作製し光学顕微鏡で観察した. その結果, 断根処理によって, 茎軸長は短くなる傾向が, 逆に茎および辺周部維管束環の直径は太くなる傾向が認められた. また, 冠根原基数ならびに出現に至った冠根原基の数は, 特定の茎軸部位で増·減するような傾向は認められず, それぞれの茎軸部位において少しずつ多くなった. 一方, 冠根原基の太さは顕著に変動しなかった. 以上より, 苗が断根された場合に, 冠根原基ならびに出現に至る冠根原基の数は断根されない場合に較べて多くなることが, そしてそれらの増加は断根処理後ただちに短期間で起こるのではなく, 徐々にかつ継続的に起こって, 活着に寄与することが考えられた.