抄録
2001年から2003年にかけて堆肥連年施用有機水田において, 堆肥の施用量と水管理を異にして, 水稲の生育, 収量と, 温室効果ガスの発生について検討した. 化学肥料を全く用いないで堆肥を200 kg/a連年施用した堆肥標準区では, 化学肥料を使用した慣行多肥栽培の対照区と比較して生育と収量が劣ったが, メタンの発生は対照区と同程度かやや増える程度であった. 堆肥多量区では堆肥500~1000 kg/aを連年施用することによって生育量と収量を増加させることができたが, 同時に多量のメタンの発生を促進させた. 湛水制限を行った堆肥多量・制限区では酸化還元電位が高まり, メタンの発生を抑えることができた. 収量は堆肥多量区と比較して若干減少した. 極端な低温と日照不良の年では, 窒素の供給が多い堆肥多量区, 堆肥多量・制限区の生育は比較的よかったが, 穂いもちの発生が多く, 堆肥を多量に施用しても収量を増加させることはできなかった. 湛水制限を行った堆肥多量・制限区では, 酸化的な状態と還元的な状態が繰り返されることによって亜酸化窒素が発生する可能性が考えられたが, 本試験では発生はほとんど認められなかった. 以上の結果から, 無化学肥料の水稲有機栽培における収量は, 好天候の年であれば, 化学肥料を用いる慣行多肥栽培より劣るものの, 多量の堆肥施用により, 慣行多肥栽培に近い収量が得られた. メタン発生も多くなったが, 湛水を制限することによってメタンの発生を抑えられることが明らかとなった.