生産性が高く低環境負荷的な窒素施肥管理に資する窒素動態の簡易モデルを構築する基礎データを得るため, 基肥と穂首分化期追肥を組み合わせた試験区を設けて水稲を1/2000 aワグネルポットを用いて栽培し, 地下浸透や表面流出による流出水の窒素濃度および流出量を調査して窒素収支の中味について検討した. 供試品種はコシヒカリとタカナリで, 成熟期までの無機化量は0.66 g/ポット, 雨水や灌漑水からの供給量は0.06~0.08 g/ポットで, 施肥窒素などを含めた窒素インプット合計は1.09~1.91 g/ポットであった. 窒素施肥区における地下浸透による窒素流出量は0.23~0.31 g/ポットの範囲にあったが, 表面流出窒素はほとんど認められなかった. 植物体の吸収量は0.51~1.27 g/ポットで, コシヒカリ, タカナリともに窒素施肥区間では流出量や吸収量に有意な差はなく, 窒素施肥法の影響はみられなかった. これらの結果から, 窒素施肥区においては窒素インプット合計の12~16%が地下浸透により流出したが, その大部分は湛水後10日間に地下浸透した硝酸態窒素としての地力窒素であった. 地下浸透あるいは表面流出により相当量の施肥窒素が流出する一般の生産圃場と違って, 本実験では基肥窒素の多くは脱窒あるいは粘土含量が高い供試土壌に吸着したこと, 追肥窒素の多くはイネに吸収されたことに加え, 基肥および追肥窒素施用直後に顕著な降雨がなく表面流出が生じなかったことにより施肥窒素の窒素流出は少なく, 施肥量の5%程度であった.