日本作物学会紀事
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栽培
中山間地における育苗箱全量施肥による水稲の不耕起移植深水栽培
渡邊 肇日高 秀俊三枝 正彦大江 真道渋谷 暁一
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2006 年 75 巻 3 号 p. 264-272

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抄録

中山間地における育苗箱全量施肥不耕起移植深水栽培が水稲の生育と収量に及ぼす影響を1999年と2000年に検討した. 品種「ひとめぼれ」を供試し, 活着期から有効分げつ決定期まで水深を10 cmとし, 有効分げつ決定期から出穂期までの水深を20 cmとした深水I区, 有効分げつ決定期から出穂期までを水深20 cmとした深水II区, 慣行の水管理を行う慣行区を設けた. 水稲の草丈は両深水区とも, 深水管理開始後から慣行区を上回った. 最終的な葉数は水管理で有意差はなかった. 葉色は両深水区ともに, 概ね水管理の影響を受けなかった. 茎数は1999年では, 深水I区の最高茎数と穂数が慣行区と深水II区に比べて有意に減少したが, 深水II区の穂数は慣行区と同等であった. 2000年は茎数の推移における水管理の影響はみられなかった. 登熟歩合は, 両年とも深水管理によって増加した. 収量は両年とも水管理で有意差はみられなかった. 1999年は収量と穂数の間に相関関係がみられなかったが, 2000年と両年を込みにした場合には, 収量と穂数, 総籾数との間に正の有意な相関関係がみられ, 収量と一穂籾数には相関関係がみられなかった. これらから, 安定収量には穂数の確保が重要と考えられた. さらに, 肥効調節型肥料を用いた不耕起移植深水栽培の施肥窒素利用率は, 水管理の影響を受けなかった. 以上, 有効分げつ決定期から入水を開始する育苗箱全量施肥不耕起移植深水栽培は中山間地における水稲の安定生産に貢献でき, 環境負荷軽減・省力化の面からも期待されると考えられた.

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© 2006 日本作物学会
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