日本作物学会紀事
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品種・遺伝資源
水稲福島県育成系統の家系分析
佐藤 弘一吉田 智彦
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キーワード: 祖先, 近縁係数, 家系分析
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2007 年 76 巻 2 号 p. 238-244

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抄録

福島県農業試験場で育成した系統および福島県で現在まで作付けされてきた水稲品種(比較品種)の家系分析を行った. 育成系統の最終の祖先品種と育成系統との近縁係数を計算したところ, 値が最も大きかったのは旭(朝日), 次に愛国, 大場(森田早生), 亀の尾, 器量好(選一, 神力), 上州, 京都新旭の順であった. 北部九州地域の材料と異なり, 育成系統は旭(朝日), 大場(森田早生), 亀の尾の遺伝的寄与が高かった. 旭(朝日)の遺伝的寄与が高かったことは農林21号を数多く母本とし利用し, 改良を進めてきたためと考えられた. また, 大場(森田早生), 亀の尾は東北地域で育成された品種であり, 北部九州, 東北南部といった地域性の違いが影響していると考えられた. 玄米品質について, 育成系統は対コシヒカリ, 対亀の尾の近縁係数と有意な負の相関関係にあり, 対旭(朝日)近縁係数と有意な正の相関関係が認められた. 食味について, 比較品種は対コシヒカリ, 対農林22号の近縁係数と有意な正の相関関係にあったが, 育成系統は有意な相関関係が認められなかった. 育成系統は対コシヒカリ近縁係数が高く, コシヒカリの改良後代を利用することによる食味の改善が進んだために有意な相関関係が認められなかったと考えられた. コシヒカリによる良食味化とは異なる新たな母本の探索が今後の良食品種育成に必要であると考えられた. このように近縁係数を検討することにより品種の遺伝的背景が明確になり, 食味, 玄米品質の改良など交配目標にあった交配母本の選定が合理的に進められると考えられる.

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© 2007 日本作物学会
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