日本作物学会紀事
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水稲品種オオチカラ由来の短根性準同質遺伝子系統IL-srt1の施肥窒素量と 栽植密度に対する生育反応
趙 仁貴塩津 文隆劉 建辺 嘉賓豊田 正範諸隈 正裕楠谷 彰人
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2009 年 78 巻 2 号 p. 203-208

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抄録

水稲品種オオチカラとその短根性準同質遺伝子系統IL-srt1を異なる栽植密度下で栽培する圃場試験,および異なる施肥窒素条件下で栽培するポット試験を実施し,これらの環境変化に対する生育反応の比較調査を通じて,短根という形態特性が水稲の生育に及ぼす影響を検討した.株当たり地上部乾物重および穂数は,品種・系統に拘わらず栽植密度が増加するほど減少し,施肥窒素量の増加に伴って増加した.また,疎植条件下や高窒素条件下のIL-srt1の株当たり地上部乾物重と穂数は,密植条件下や低窒素条件下のオオチカラの値を上回る場合も多かった.栽植密度および施肥窒素量のいずれの試験でも株当たり地上部乾物重は茎当たり地上部乾物重よりも株当たり穂数と密接に関係していたが,株当たり地上部乾物重および穂数と総根長との関係は,栽植密度の試験の場合のみ有意な正の相関関係が認められた.また,IL-srt1とオオチカラとの株当たり地上部乾物重と穂数の差は,栽植密度が低いほど拡大する傾向を示したが,施肥窒素量の変化に対しては一定の傾向を示さなかった.これは,栽植密度の試験では疎植下ほど根域の差が養水分供給能力の差として生育に大きく反映されるのに対して,窒素量の試験では根域の影響を介さずに与えた窒素量の差が地上部の生育差として反映されたためと推察された.以上の結果から.水稲における短根という形態特性は,個体当たりの根長が短く,根域が狭いことで根系の養水分供給能力が低く,そのため,分げつの発育抑制などを介して地上部生育を低下させる可能性が示唆された.

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© 2009 日本作物学会
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