抄録
バレイショは栄養繁殖性作物であるため,種イモによって病原体を伝染することがあり,また増殖率が低いといった問題もある.そこで,器内培養で大量に増殖したマイクロチューバー(MT)を種イモに利用する栽培(MT栽培)が検討されている.しかし,MT栽培が生育・収量に及ぼす影響の品種間差異に関する知見は少なく,MT栽培の普及を妨げる要因の一つになっている.そこで本研究では,国内の主要28品種・系統を供試し,MT栽培および慣行の種イモを用いる栽培(CT栽培)を同一の標準的な耕種管理条件下で2ヶ年行い,生育・収量を比較した.各品種のCT栽培に対するMT栽培の割合(MT/CT比)は塊茎数,平均塊茎一個重および塊茎生重では,全品種の平均値がそれぞれ約0.9,0.8および0.7であった.種イモと品種の間の交互作用は塊茎数および平均塊茎一個重で有意であったが,塊茎生重は有意でなかった.この理由として,いずれの年次でも塊茎数のMT/CT比と平均塊茎一個重のMT/CT比の間に有意な負の相関関係があることがあげられた.すなわち,MT栽培ではCT栽培と比べて一個重の低下は小さいが塊茎数が大きく減少する品種群と,塊茎数の減少は小さいが一個重が大きく低下する品種群に分かれることが明らかになった.この品種特性はMT栽培を種イモの増殖に利用する場合に考慮する必要がある.