日本作物学会紀事
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79 巻, 3 号
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研究論文
栽培
  • 辺 嘉賓, 諸隈 正裕, 塩津 文隆, 豊田 正範, 楠谷 彰人
    2010 年 79 巻 3 号 p. 251-261
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    中国華北地域での水稲の有機栽培に関する基礎的知見を得るために,中国華北地域の水稲品種 (中国品種) と日本で育成された水稲品種 (日本品種) をそれぞれ7品種ずつ供試して,移植後の米糠施用が収量や食味に及ぼす影響について品種間で比較検討した.供試品種は,育成地域の違いに加えて,草型 (穂数型/穂重型) や収量性が異なる.試験は香川大学農学部附属農場の水田で2006年~2008年の3年間実施した.試験方法は移植翌日に水田表層に米糠を100g/m2散布する米糠栽培とし,農薬や化学肥料は使用しなかった.収量調査の結果,籾収量には年次間,品種間にそれぞれ有意な差が認められた.また総籾数は穂数型品種より穂重型品種の方が多い傾向がみられ,籾収量との間には有意な正の相関関係が認められた.また総籾数が30000粒/m2前後の場合に登熟歩合は80%程度と高く,年次にかかわらず安定した収量が得られた.慣行栽培ヒノヒカリを基準米とした食味官能検査の結果,外観,味,粘り,硬さには明確な品種間差が認められたものの,総合評価に品種間差はみられなかった.このことはタンパク質含有率や味の評価が年次により異なる傾向を示す品種がみられたことによるものと考えられた.以上から,米糠栽培では収量面では穂数型品種より穂重型品種の方が有利であるが,食味に対する品種の影響は小さいことが明らかとなった.
  • 津田 昌吾, 森 元幸, 小林 晃, 高田 明子
    2010 年 79 巻 3 号 p. 262-267
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    バレイショは栄養繁殖性作物であるため,種イモによって病原体を伝染することがあり,また増殖率が低いといった問題もある.そこで,器内培養で大量に増殖したマイクロチューバー(MT)を種イモに利用する栽培(MT栽培)が検討されている.しかし,MT栽培が生育・収量に及ぼす影響の品種間差異に関する知見は少なく,MT栽培の普及を妨げる要因の一つになっている.そこで本研究では,国内の主要28品種・系統を供試し,MT栽培および慣行の種イモを用いる栽培(CT栽培)を同一の標準的な耕種管理条件下で2ヶ年行い,生育・収量を比較した.各品種のCT栽培に対するMT栽培の割合(MT/CT比)は塊茎数,平均塊茎一個重および塊茎生重では,全品種の平均値がそれぞれ約0.9,0.8および0.7であった.種イモと品種の間の交互作用は塊茎数および平均塊茎一個重で有意であったが,塊茎生重は有意でなかった.この理由として,いずれの年次でも塊茎数のMT/CT比と平均塊茎一個重のMT/CT比の間に有意な負の相関関係があることがあげられた.すなわち,MT栽培ではCT栽培と比べて一個重の低下は小さいが塊茎数が大きく減少する品種群と,塊茎数の減少は小さいが一個重が大きく低下する品種群に分かれることが明らかになった.この品種特性はMT栽培を種イモの増殖に利用する場合に考慮する必要がある.
  • 松本 静治, 吉川 正巳
    2010 年 79 巻 3 号 p. 268-274
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    京都府の黒ダイズ産地で見られる収量低下現象の原因究明の一環として,灰色低地土転換畑において黒ダイズを連作した場合の生育,収量への影響および土壌の化学性の変化を調べ,以下の結果を得た.1)粗子実重は3作目まで増加したが,4作目から徐々に減少した.2)着莢数は3作目まで増加したが,4作目以降は横ばいで推移した.3)粒径が10 mmを超える子実の重量が粗子実重に占める割合(子実2 L率)は1作目から3作目まではほぼ同程度であったが,4作目から急激に低下した.4)開花期における根粒着生量は4作目から著しく減少した.5)土壌の化学性について,全窒素,全炭素および陽イオン交換容量を調べたところ,連作にともなうこれらの特性の低下は認められなかった.また,2作目から牛糞バーク堆肥を10アール当たり3 t施用する区を設けたところ,連作圃場における根粒着生量の減少程度は緩和されたが,収量および子実2 L率に対する施用効果はみられなかった.これらのことから黒ダイズを連作すると,生育量に大きな変化は認められないが,4作目からは子実が小粒化して収量が低下することが示され,これは主に4作目からの著しい根粒着生量の減少にともなう固定窒素の供給量の低下によるものである可能性が示唆された.
  • 北野 順一, 中山 幸則, 松井 未来生, 大西 順平
    2010 年 79 巻 3 号 p. 275-283
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    三重県の水稲早期栽培では2月下旬から3月中旬の低温期に浸種作業が実施されるが,2007年と2008年に発芽不良が発生し問題となった.そこで,浸種水温,時期,期間を操作し,種子貯蔵期間,産地,調製ロットの異なる品種を用いて低水温浸種が水稲種子の発芽率に及ぼす影響と発芽不良の軽減対策について検討した.発芽率には浸種初期の水温の影響が大きく,浸種初日を5℃の低水温にするとその後を12.5℃の適水温で浸種しても発芽率は抑制された.逆に浸種初日を12.5℃の適水温とするとその後を低水温としても発芽率は低下しなかった.また,浸種開始から2~8時間のみ適水温としその後低水温とした浸種でも全期間を適水温とした浸種と同等の発芽率を確保できることが確認されたことから,短時間の適水温浸種は低温期の育苗において発芽を安定させる有効な手法であるといえる.低水温浸種による発芽率の低下は品種や貯蔵期間にかかわらず発生し,前年産種子であっても低水温浸種で発芽不良が起こる危険性が高い種子の存在が確認された.
品質・加工
  • 中村 善行, 藏之内 利和, 高田 明子, 石田 信昭, 鴻田 一絵, 岩澤 紀生, 松田 智明, 熊谷 亨
    2010 年 79 巻 3 号 p. 284-295
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    サツマイモ塊根における蒸した後の肉質の違いに関わる要因の解明を目的として,肉質の異なる品種における塊根の組織・細胞形態ならびに水分およびデンプンの含有率や存在状態の違いを調べた.肉質が粉質な品種の生塊根では,デンプン含有率が高く,水分が少ない傾向が見られ,デンプンが完全に糊化した蒸しあがった塊根組織においても個々の細胞の形状は保持されていた.一方,粘質な肉質となる品種の生塊根は粉質な品種と比べてデンプン含有率が低く,水分が多い傾向が認められ,蒸した後の塊根組織では,隣接する細胞同士が融合し,それらと糊化デンプンゲルとが一体化した構造が観察された.また,粘質な肉質を呈する品種では多量の水分が組織に一様に分布しているが,粉質な品種では水分が少なく,分布も不均一なことが蒸した塊根のMR画像から示唆された.このように塊根におけるデンプンおよび水分の含有率と蒸した後の肉質との間には関連があり,蒸した塊根の組織・細胞形態にも肉質の違いに応じた相違が認められたが,細胞から単離したデンプンのアミロース含有率,糊化特性,ゲルの保水性には肉質との間に一定の関係が見られなかった.以上の結果から,蒸したサツマイモ塊根の肉質の違いには塊根におけるデンプンと水分の含有率が深く関わっているものの,これに加えて細胞壁の物理的および化学的性質などを介した細胞内におけるデンプン糊化特性や水分子の運動性なども関与していると考えられた.
  • -灰色低地土水田と黒ボク土畑におけるオオムギ精麦品質の差異-
    塔野岡 卓司, 河田 尚之, 吉岡 藤治, 乙部 千雅子
    2010 年 79 巻 3 号 p. 296-307
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    黒ボク土で栽培されたオオムギの精麦品質低下とその要因および育種上の改善策について明らかにするため,低タンパク質品種・系統を含む複数の品種・系統を用いて,灰色低地土水田と黒ボク土畑における原麦形質と精麦品質およびそれらに関与する成分含量の変動を解析した.その結果,タンパク質含量と硝子率には品種間差が認められたが,土壌の寄与率も高く,黒ボク土畑ではタンパク質含量と硝子率が高くなりやすいことが確かめられた.また,黒ボク土畑では搗精時間が長くなるとともに精麦白度が低下したが,これらの品質低下は硝子質粒の増加に起因すると考えられた.また,胚乳細胞壁の主要構成多糖であるβ–グルカンの含量は,黒ボク土畑で有意に増加した.黒ボク土畑での搗精時間の増加には,硝子率だけでなくβ–グルカン含量の増加も関与する可能性が考えられた.黒ボク土における硝子質粒の発生抑制策としてタンパク質の低含量化が考えられたが,低タンパク質品種・系統であっても黒ボク土畑では硝子率が高くなり,民間流通麦の品質評価項目に定められている硝子率の許容値よりも低く抑えることはできなかった.このことから,黒ボク土でも硝子質粒の発生しにくいオオムギを育成するためには,タンパク質の低含量化よりも,硝子質化しにくい胚乳形質の利用が効果的であると考えられた.
  • -粉状質胚乳を呈するデンプン変異形質の有用性-
    塔野岡 卓司, 河田 尚之, 藤田 雅也, 吉岡 藤治, 乙部 千雅子
    2010 年 79 巻 3 号 p. 308-315
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    黒ボク土など穀粒が高タンパク質化しやすい栽培環境における精麦品質の向上に有用な形質を明らかにするため,胚乳が粉状質を呈するモチ性および破砕デンプン粒変異(fractured starch granule)に関する準同質遺伝子系統を用いて,灰色低地土水田と黒ボク土畑における硝子率と精麦品質の差異を解析した.その結果,これらの準同質遺伝子系統ではタンパク質含量にかかわらず,ほぼ完全な粉状質であり,黒ボク土畑においても硝子質粒がほとんど発生しないことが明らかになった.また,モチ性および破砕デンプン粒変異の準同質遺伝子系統は,栽培土壌にかかわらず原系統よりも高白度であった.搗精時の砕粒発生は原系統と同程度かむしろ少なく,胚乳が粉状質であっても砕けやすい脆い粒質ではないことが明らかとなった.以上のことから,モチ性や破砕デンプン粒変異は,高タンパク質化の影響を受けない粉状質高白度品種の育成において有用な形質であると考えられた.また,これらの準同質遺伝子系統ではデンプン含量が減少したが,胚乳および糊粉層の細胞壁多糖であるβ–グルカンの含量が増加することが認められた.β–グルカンは,人体にとって種々の機能性を有する多糖であるため,モチ性や破砕デンプン粒変異は食用オオムギの付加価値の向上においても有用な形質であると考えられた.とくに,破砕デンプン粒変異はウルチ性の完全粉状質品種の育成に有用な形質であると考えられた.
品種・遺伝資源
  • 島村 聡, 飯村 敬二, 高溝 正, 石本 政男, 羽鹿 牧太
    2010 年 79 巻 3 号 p. 316-321
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    一般にダイズは,自殖率が極めて高い作物であるが,開花期前に低温に遭遇すると,花粉の形成不良による不稔が原因となり他殖率が増大する可能性が指摘されている.そこで本研究では,開花期前の低温処理が自然交雑率(他殖率)に及ぼす影響を調査した.ダイズ品種「青丸くん」の種子の子葉色は緑色であるが,子葉色が黄色の品種と交雑すると,交雑種子(F1)の子葉色は黄色になるので,これを交雑判定に利用した.開花期約1週間前の 「青丸くん」を人工気象室に入れ,8~15℃で7日間低温処理を施した.処理個体および対照個体を圃場の花粉源となるダイズのそばに設置し,自然交雑率を調査した.その結果,対照区の交雑率は0~0.18%に対して低温区では0.1~0.62%で,開花期前の低温処理は交雑率を著しく増大させた.また,花粉を媒介するミツバチの巣箱設置の効果も調査したところ,交雑率はミツバチ設置区では0.21%で非設置区の0.07%よりも高かった.本研究により,開花期前の低温がダイズの交雑率を増大させる一因であることが確かめられた.
  • 細井 淳, 牛木 純, 酒井 長雄, 青木 政晴, 斉藤 康一
    2010 年 79 巻 3 号 p. 322-326
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    近年,長野県内の一部地域では,トウコンと呼ばれる雑草化した赤米(以下,雑草イネ)の発生拡大が問題となっている.本研究では,県内各地から収集した雑草イネの代表的な集団について,脱粒後の種子の生存動態を知るため,土壌表面に置床した種子の越冬生存性と,埋土した種子の寿命をそれぞれ圃場条件下で調査した.土壌表面に置床した種子は,越冬2年目に全て死滅した.作土層(地表面下10~15cm)に 埋土した種子は,越冬3年目に全て死滅した.土壌表面に置床した種子の越冬生存性および埋土した種子の寿命には集団間で大きな差があり,越冬1年目では休眠が深い集団ほど越冬生存性が高く,土中の生存個体数が多い傾向にあった.以上の結果から,雑草イネの防除には脱粒した種子を地表面で越冬させることで死滅を促進し,作業機械などを介した圃場への種子の侵入を遮断した上で徹底防除を2年間実施することにより根絶が可能であると推察された.
作物生理・細胞工学
  • -自然日長と短日処理による違い-
    薮田 伸, 南 さやか, 箱山 晋, 川満 芳信
    2010 年 79 巻 3 号 p. 327-335
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    短日条件がイネの生殖生長に与える影響をジャポニカ,インディカを含む8品種を用いて検討した.生殖生長相は幼穂形成開始(以後,幼穂形成始期と表す)から出穂までとした.短日処理区(10時間日長)と自然日長区を設け,8 L容量ポットに1株1本植えで9個体を植え,各処理区・各品種5ポットずつ栽培し,それらの幼穂形成始期と出穂期を調べた.供試した8品種から得られた結果は次のとおりである.(1)短日処理により生殖生長相は晩生>中生>早生の順に短くなる傾向を示した.また,各品種の生殖生長相が短日処理により短縮される期間は早生>中生>晩生の順で長くなる傾向が認められた.(2)分散分析の結果,供試した8品種において生殖生長相は品種間,処理区間で1%水準の有意差があることが示された.一方,TEPI,MIRITI,BINASHAILは生殖生長相が短日処理区と自然日長区で変わらないことより,生殖生長相が短日処理の影響を受けにくい品種も存在することが分かった.
収量予測・情報処理・環境
  • -主成分分析による解析-
    籾井 隆志, 釋 一郎, 松家 一夫, 中嶋 泰則, 濱田 千裕, 林 元樹
    2010 年 79 巻 3 号 p. 336-341
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    愛知県農業総合試験場では,1926年から水稲の四要素(窒素,りん酸,カリ,石灰)及び堆肥連用試験と各要素連年無施用の試験を行っている.2002年までの77年間における試験結果において,各試験年次の各試験区の収量がどのような特徴を示しているかについて考察するため,主成分分析を行った.主成分分析の結果,2つの主成分が観察され,第1主成分は,窒素,りん酸ともに施用した場合の収量の多少,第2主成分は,窒素,りん酸のいずれかあるいは両方を施用しない場合の収量の多少と解釈できた.主成分分析により,各試験年次のグループ分けをすることができた.分けられた各グループの施肥効果,気象条件等の特徴を調査したところ,窒素,りん酸をともに施用した試験区で収量が高いときは,カリ,石灰の施用効果が低く,堆肥の施用効果が落ち込まないことが考えられた.また,窒素,りん酸のいずれかを施用しない試験区の収量が高いときは,日照時間が多く,このとき,窒素,りん酸をともに施用したときに,カリ,石灰の施用効果が大きくなることが考えられた.多照条件で,NPCa(無カリ)区,NPK(無石灰)区はNPKCa(四要素)区に比較して,より減収したが, 多照条件下では.カリ欠除及び石灰欠除に伴うカリウム吸収の抑制による低湿度下での光合成の著しい減少が関係し,減収したものと考えられた.また,窒素,りん酸をともに施用した場合,カリ,石灰の施用効果は日照時間が多く光合成により適した環境下で大きいことが示唆された.
  • 原 嘉隆
    2010 年 79 巻 3 号 p. 342-350
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    ある温度での日数をArrhenius式に基づいて25℃などの標準温度の日数に換算する温度変換日数は,異なる温度条件での植物生育予測にも用いられる.温度変換日数の精確な算出には日変動を反映した温度データを用いる必要があるが,計算が煩雑なので日平均温度のみで算出されることが多い.そこで,温度変換日数を日平均温度のみで算出した場合の過誤評価程度を試算し,補正を検討した.まず,昼夜別一定温度条件において温度変換日数を算出する式を誘導し,昼夜別一定温度で昼夜の温度差を変えた場合の水稲の出芽日数の変化に適用したところ,温度差が大きいほど出芽が速いという結果を説明できた.次に,日平均温度のみで算出した温度変換日数の過誤評価程度を把握するため,屋外3年間の気温と地温を用いて日変動を反映させた場合と日平均温度のみで算出した場合を比較したところ,日平均温度のみで算出した場合の過誤評価率は地温で1%以下であったが気温で平均6%と大きく,日変動を反映させる必要性が示唆された.日較差と過小評価率には密接な関係があったので,その関係を用いて日平均温度から算出した温度変換日数を日較差で補正する式を導出した.この式を適用すると,気温でも過誤評価率が0.3%以下となったので,この補正式を用いれば日変動を反映した温度変換日数を日平均温度と日較差から簡単に推定できると考えられた.
  • -出穂前の気象要因が1等米比率へ及ぼす影響-
    宮野 法近, 国分 牧衛
    2010 年 79 巻 3 号 p. 351-356
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    宮城県では南部の玄米品質等級が他地域に比べ低いことが指摘されている.前報では出穂後20日間の日最低気温,日照時間および出穂期までの気温が等級に影響を及ぼしている可能性を指摘したが,移植から出穂期における気象条件の詳細な解析には至らなかった.そこで本研究では過去28年間を,ササニシキが中心に作付けされた1977から1993年まで(以後1993年まで)と,ひとめぼれが中心に作付けされた1994から2005年(以後1994年以降)に分け,1等米比率とm2当たり籾数の関係および移植盛期から出穂期までの気象条件がm2当たり穂数へ及ぼす影響について,県内の仙南,仙台,大崎地域間で比較検討した.1993年までは,全ての地域で一定のm2当たり籾数以上で1等米比率との間に負の相関があった.1等米比率と相関が見られた年次の各地域のm2当たり籾数は,m2当たり穂数と正の相関があった.m2当たり穂数は仙南地域が7月の積算日照時間,仙台地域が幼穂形成期から減数分裂期の日最低気温,大崎地域が7月の日最低気温とそれぞれ負の相関が見られ,影響を受ける出穂期前の気象条件は地域によって異なった. 1994年以降においても,仙南,仙台地域ではm2当たり籾数と1等米比率の間には負の相関,m2当たり籾数とm2当たり穂数の間には正の相関があった.m2当たり穂数と相関を示す気象要因は,仙南地域が6月の積算日照時間,仙台地域が移植盛期から夏至までの日最高気温と正の相関が見られた.また,ササニシキ,ひとめぼれでは出穂期前後の気象条件が1等米比率へ及ぼす影響が異なっていた.
研究・技術ノート
  • 松岡 翼, 鮎澤 信昌, 小林 敏樹
    2010 年 79 巻 3 号 p. 357-362
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    麦茶加工適性の高い大麦品種の識別を目的に,原料大麦の簡易分析と焙煎後の粉砕L値が30となるように同一条件で焙煎試験を行い,得られた焙煎大麦と原料大麦の分析値の相関を調査した.その結果,千粒重と麦茶抽出液の吸光度に高い負の相関が認められた.また,麦茶抽出液の官能評価を行った結果,タンパク質含量が高いほど,風味及び香りが強いという傾向が認められた.これらの結果から,風味や香りに大きな影響を与える成分と麦茶の色に大きな影響を与える成分が異なると考えた.すなわち,風味や香りにはタンパク質が焙煎により褐色反応を起こすメイラード反応の影響が強く,麦茶抽出液の吸光度には糖質の褐色反応であるカラメル反応が大きく起因していると推測した.
  • 古畑 昌巳, 帖佐 直, 松村 修, 大角 壮弘
    2010 年 79 巻 3 号 p. 363-371
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    寒冷地においてエアーアシスト条播機と酸化鉄コーティング種子を利用した水稲直播栽培法を確立する目的で, 催芽種子を利用した酸化鉄コーティング直播の出芽・苗立ちを圃場・機械播種条件で検討すると同時にポットで詳細に評価した.また,催芽種子を利用した酸化鉄コーティング直播の出芽・苗立ちをさらに早める目的で,コーティング後加温処理に着目し,コーティング後加温処理した種子の播種機通過処理が出芽・苗立ちに及ぼす影響およびコーティング後加温処理した種子の低温貯蔵性について検討した.その結果,北陸のような播種時期が冷涼となる地域での酸化鉄コーティング直播栽培では,催芽種子を利用することによって出芽が早まって出芽・苗立ち率も向上し,初期生育量も確保しやすいことが示唆された.一方,酸化鉄コーティングした催芽種子をエアーアシスト条播機で播種する場合,コーティング後加温処理した種子では播種機通過による損傷は著しく大きく,低温密封貯蔵期間中に発芽率も早期に低下したことから,酸化鉄コーティング直播栽培へのコーティング後加温処理の導入は難しいと判断された.
情 報
連載ミニレビュー
  • 小川 敦史
    2010 年 79 巻 3 号 p. 373-376
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    地上部生育を維持するための,または作物が生存するための重要な鍵は,作物がいかに根の生長を維持し,根系を拡大し,養水分吸収を維持できるかにあるのではないかと考えられる.根の伸長は,細胞伸長と細胞数の増加の積によって規定される.細胞伸長には,膨圧と細胞壁の物理性が主として関与しており(Lockhart 1965),根における膨圧と浸透ポテンシャルの測定の詳細については,野並(2001)によって紹介されている.また,一個体の根系は発生学的,形態学的,また生理機能的にも異なる種類の根で構成されており(河野ら1972,Yamauchiら1987,Yamauchiら1996,Wangら2006),とくに作物根系の大部分は側根によって構成されており,側根は作物生育において重要な働きをしている.本稿では,根系形成メカニズムを解明するにあたり有用であると考えられる細胞分裂,オーキシン,糖代謝酵素の組織学的検出法について紹介する.
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