抄録
水稲では,登熟期が高温になると乳白米や背白米等の白未熟粒が多発することが知られている.近年,気温は平年より高まる傾向にあり,登熟期だけでなく栄養生長期の気温も上昇している.そこで本研究では,水稲品種コシヒカリを供試し,自然光ファイトトロンを利用して,出穂期以前の高温が水稲の生育と玄米外観品質に及ぼす影響を調査した.移植後7日目から50日間の栄養生長期における高温処理(32/27℃)は,中温処理(27/22℃),低温処理(22/17℃)に比べて,地上部の生育を旺盛としたが,根の生育促進は伴わず,根/地上部重比を小さくした.土壌溶液中のアンモニア態窒素発現は,高温区ほど多かったことから,高温が土壌窒素の発現を介して間接的に根の生育を抑制した可能性が考えられた.一方,水耕栽培で窒素濃度を一定として温度条件を変えた実験でも高温区ほど根/地上部重比が小さくなったので,栄養生長期の高温による根/地上部重比の低下には温度の直接的な影響と土壌窒素を介しての間接的な影響があると考えられた.出穂期前28日間の高温処理(32/27℃)により根/地上部重比を小さくした区では,低温処理(27/22℃)区に比べて出穂後の高温(32/27℃)による白未熟粒の発生が多かった.出穂前に高温処理した区では,葉面積は大きかったが,純同化率が小さかったため登熟期の乾物重増加が小さかった.このことには,株あたりの出液速度で示される根の生理活性の低下と葉の老化促進が関与していると考えられた.