日本作物学会紀事
Online ISSN : 1349-0990
Print ISSN : 0011-1848
ISSN-L : 0011-1848
形態
登熟初期のコムギ子実における同化産物の転送に関与する組織構造の変化
鴻田 一絵松田 智明新田 洋司
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 79 巻 4 号 p. 499-505

詳細
抄録

登熟期のコムギ子実において,同化産物は背部維管束から珠心突起,胚乳液腔,特殊化した糊粉細胞 (胚乳組織の転送細胞) を順に経由して胚乳組織へと至る.同化産物の転送と組織構造発達の関連について明らかにするため,登熟初期のコムギ子実を経時的に採取し,光学顕微鏡で観察した.茨城大学農学部圃場で栽培したコムギ品種農林61号の子実を供試した.採取した子実をグルタルアルデヒドと四酸化オスミウムで二重固定後,エタノール系列で脱水した.その後スパー樹脂に包埋し,準超薄切片を作成後,トルイジンブルーOで染色した.観察した子実において,胚乳組織 (シンク組織) の分化は開花後8日に完了した.同時期に,珠心突起から転送される同化産物をシンク組織に転送する構造 (特殊化した糊粉細胞および胚乳液腔) が発達した.開花後9日には,珠心突起の転送細胞において,細胞壁内部突起が発達した.また,胚乳組織では一次デンプン粒の蓄積が顕著に認められた.開花後5日と比較し,開花後16日の背部維管束では,木部と篩部の後生要素の数が増加し,維管束柔細胞が発達した.以上の結果より,珠心突起の転送細胞は,背部維管束から転送される同化産物をより効率的に胚乳液腔へ転送させると推察された.胚乳組織における一次デンプン粒の増加は,背部維管束からシンク組織への同化産物の転送量あるいは転送速度の増加によるものと示唆された.加えて,背部維管束の発達は,同化産物の転送が活発な時期と一致した.

著者関連情報
© 2010 日本作物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top