抄録
水稲種子の温湯消毒法は,有害な薬剤を含む廃液を生ずることがないので,クリーンな農業技術として最近注目を集めている.しかしながら水稲品種の中には種子が高温処理に弱く,温湯消毒によって発芽が著しく抑えられるものがある.また温湯消毒では十分に防除することが難しい病害があることも報告されている.したがって温湯消毒法を広く普及させるには,多くの品種の種子に「温湯に強い」という形質を付与する必要がある.そのためには高温処理に極めて強い種子を持つ品種を見出すことと,その種子が高温に耐性となる要因を解明することが重要である.本研究では「ひとめぼれ」の種子が極めて強い高温耐性をもつことを確認し,高温耐性を示す機構を明らかにするための解析を行った.その結果,「ひとめぼれ」の種子は,対照として用いた「日本晴」と比較して著しく強い高温耐性を有していることが明らかになった.さらに頴を除去した玄米を温湯処理する実験結果から,「ひとめぼれ」の種子が強い高温耐性を示す要因は,頴と,玄米の両方にあることが示唆された.