日本作物学会紀事
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品種・遺伝資源
湛水直播水稲における低温苗立ち性の品種間差異と初期伸長性の関係
田中 英彦山崎 信弘天野 高久
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2016 年 85 巻 2 号 p. 162-167

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抄録

外国稲を含む52品種・系統を供試して,圃場条件下における低温苗立ち性を評価し,さらに低温苗立ち性と15℃における低温発芽性および15℃水中における初期伸長性との相互関係を検討した.苗立ち試験は5月と7月に実施した.土壌を充填した水稲マット苗用育苗箱に播種深度5 mmで播種し,代かきした水田内に設置し,5月播種では水深3 cm程度の湛水管理を行い,7月播種では第1葉抽出始めから9日間約14℃の冷水を掛け流した.両播種期ともに苗立ち率に大きな品種間差異が認められた.道内品種では「胆振早稲」の苗立ち率が最も高かったが,外国稲6品種は両播種期ともに「胆振早稲」よりも高い苗立ち率を示した.苗立ち率を出芽率(EM),出芽した個体の第1葉抽出率(FLE/EM),第1葉抽出個体の生存率(ES/FLE)の3つの構成要素に分解し,苗立ち率に対する相対的な影響力を重回帰分析によって検討した結果,5月播種ではEMが,7月播種ではEMとES/FLEが最も苗立ち率に影響した.15℃発芽係数(発芽率を平均発芽日数で除した値)と両播種期の苗立ち率および苗立ち構成要素の間の相関関係は概して弱かったのに対して,15℃における第2葉長(第2葉葉鞘+葉身),草丈,最長根長との間に有意な正の相関関係を認めた.以上の結果から,低温苗立ち性に優れた有望な外国稲が見出されたこと,選抜にあたっては低温発芽性ばかりでなく発芽以後の初期伸長性に着目すべきことを指摘した.

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© 2016 日本作物学会
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