日本作物学会紀事
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栽培
北海道の湛水直播水稲における出芽と苗立ちに及ぼす土壌還元の影響と播種直後からの落水の効果
田中 英彦古原 洋今野 一男
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2016 年 85 巻 3 号 p. 253-259

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抄録

北海道における播種後落水管理の有効性を検証するため,温度処理(昼/夜,21/13℃と18/10℃),土壌還元処理(稲わら添加の有無),および水管理(常時湛水区と播種直後から落水区)を組み合わせて室内実験を行った.メチレンブルーによる酸化還元状態の調査で,湛水区では土壌と種籾近傍で土壌還元の進行を認め,とくに稲わら有区で顕著であったのに対し,落水区では,土壌,種籾近傍とも還元の進行はほとんど認められなかった.出芽率は,各処理ともに湛水区で抑制がみられ,とくに低温・稲わら有区で抑制が大きかった.苗立ち率は,すべての処理で稲わら有区で低下したが,いずれの処理でも湛水区に比べ落水区で苗立ち率は明らかに高かった.出芽から第1葉抽出までの日数は,湛水区で7日以上要したのに対し,落水区では2~3日と短く,このことが苗立ちの安定化に結びついたと考えられた.圃場試験において,出芽と種子根の土中への伸長を確認してから入水した落水区 (播種後の落水期間は12~13日)と播種後湛水管理した慣行区を比較したところ,苗立ちは落水区で良好で,苗の生育,収量とも慣行区に優った.圃場における地表下1 cmの日最低地温は湛水区で高かったが,日最高地温はむしろ落水区で高く,日平均地温は落水区で1℃低い程度であり,低温の影響は小さいと考えられた.以上から,播種後の落水管理は,北海道のような寒地においても出芽と苗立ちの安定化に極めて有効な技術であると考えられた.

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