2018 年 87 巻 4 号 p. 291-297
「せときらら」はパン用のコムギ品種であるが,多収を示すものの子実タンパク質含有率が低くなり易いことが問題となっている.本研究では,開花後に窒素を追肥し,子実タンパク質含有率に及ぼす影響を明らかにするとともに,その時の植物体内での窒素蓄積動向を明らかにした.窒素追肥処理では開花期に硫安を土壌表面に散布する区とともに,同じく尿素を葉面に散布する区を設けた.さらに,尿素を葉面に散布する処理では,硫安と同量を開花期に散布する区,同量を開花後1週目に散布する区,さらには開花期と開花後1週目に半量ずつ散布する区を設けた.子実収量は,開花後にどの肥料をいつ追肥しても増加しなかった.子実タンパク質含有率は,硫安と尿素の違いに関わらず追肥すると同様に増加し,また尿素を開花期に全量与えても,開花後1週目に全量与えても,開花期と開花後1週目に半量ずつ与えても同様に増加した.いずれの窒素追肥区も無追肥区に比べて子実中に多く窒素を蓄積した.尿素を葉面に散布する区は,窒素を栄養器官 (稃+葉身+茎) に蓄積した後,その低下に伴って子実に窒素を蓄積していたが,硫安を土壌表面に散布する区では,年次によって稃および茎葉に蓄積せずに直接子実に蓄積することがあった.窒素追肥処理により,葉身の窒素含有率, SPAD値が増加したとしても,乾物重は増加しなかった.窒素追肥処理は,葉身のクロロフィルタンパク蓄積を増加するものの,必要以上に蓄積しても乾物生産は高まらないと考えられた.