乾田直播(乾直)栽培の生育予測モデルの構築のため,早晩性が極早生から中晩生まで広い変異幅を有し,近年育成された品種を含む水稲8品種を用いた作期移動試験を茨城県つくばみらい市で行い,播種や移植から成熟までの生育ステージの進行を乾直栽培と移植栽培で比較した.播種や移植から成熟までの積算気温は栽植日が遅いほど小さく,減少の程度は中晩生品種で大きく極早生品種では小さかった.播種や移植から出穂までの積算気温も栽植日が遅いほど小さく,その傾向は両栽培法に共通していた.しかし,乾直栽培では初期生育段階で環境条件の影響を受けやすいことが一因で積算気温の年次間変異が大きく,また育苗期間の差を反映して移植栽培よりもその温度は高かった.一方登熟期間については,作期移動による積算気温の変異は小さく,出穂期が同等な個体間では栽培法による違いも小さかった.ただし,両栽培法とも降雨やそれに伴う気温低下など気象条件の影響が大きかった.これらの作期移動試験で得た出穂期のデータを既存の出穂期予測モデルへ導入した結果,遅い栽植日の極早生品種程適合度が高まる傾向で,移植栽培の既存の予測モデルを改良することで乾直栽培の出穂期は予測が可能となることが示唆された.これらの情報は,乾直栽培の生育予測モデルの構築や現行の栽培体系に乾直栽培を導入する際に有用な生育ステージ(出穂期)の進行に関する基礎知見になると考える.