近年,中食需要の増加とともにおにぎり・弁当向けや冷凍米飯需要が拡大している.それらに対応するには粘りが強く冷めても硬くなりにくい低アミロース米が最適と考えられるが,栽培面では低収量,加工製造面では米飯成形における「べたつき」による作業効率の低下が課題として挙げられる.そこで,課題解決に向けた知見を得るため,岩手県育成の低アミロース水稲品種「きらほ」を用い,異なる窒素施肥条件が収量性および物性を含めた食味に与える影響について検討した.基肥窒素量が6 g m–2および12 g m–2 の両試験区とも,幼穂形成期および穂揃期の2回の追肥の合計窒素量が6 g m–2 以上の区では無追肥区と比べ,精玄米重が有意に増加した.また,追肥窒素量の増量により白米タンパク質含有率は有意に高くなる傾向がみられ,白米アミロース含有率は有意に減少する傾向がみられるものの差は小さかった.さらに,炊飯米の物理性についてみると,白米タンパク質含有率は米飯粒表層の硬さとの間に正の相関関係が,表層の付着性との間に負の相関関係がみられたことから,追肥窒素量の増量により米飯成形時の「べたつき」低減が推察された.一方で,追肥窒素量の増量による米飯粒全体の硬さへの影響は小さく,食味官能評価における総合評価の低下も小さかった.したがって,低アミロース米「きらほ」は追肥窒素量を増量することにより増収するとともに,食味が低下することなく,加工製造時の米飯の「べたつき」による作業効率の低下が抑えられるものと考えられた.