日本作物学会紀事
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研究・技術ノート
圃場別データセットを利用したデータ駆動型大規模水稲作における作付改善提案の検証
石川 哲也横田 修一平田 雅敏小川 春樹小笠原 慎一中村 隆三吉永 悟志
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2022 年 91 巻 2 号 p. 163-169

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抄録

大規模稲作経営において,網羅的に収集した圃場立地ブロック・移植日・窒素施肥法などの栽培管理情報と,圃場別推定収量(以下,収量と略記)との関係を2019年に解析して得られたコシヒカリの収量向上のための改善策を,2020年に茨城県南部の農業生産法人を対象に検証した.改善策として2020年の対象圃場139筆のうち,13筆は他品種からコシヒカリに変更して5月13日までの適正時期に移植した.また,コシヒカリを継続作付した113筆および新規13筆のうち,移植時期が5月21日以降になる圃場53筆に対して,栽植密度を高めたり,基肥窒素を増施するなどの改善策を適用した.その結果,2020年の収量加重平均値は2019年より5.7%高くなったが,茨城県南部における作況指数の年次間比率107.4%を考慮すると,改善策全体としての収量向上効果は明確ではなかった.改善策別の比較では,他品種からコシヒカリに変更して適正時期に移植した圃場の収量スコアはすべてプラスとなった.また,より窒素施肥量の多い条件で栽培できる中生・晩生品種に変更して遅植えした41筆の収量スコアの平均は-2.46となり,圃場立地の影響は比較的小さいと推察された.栽培法の改善では,栽植密度を単独で高めた場合,低スコア圃場の比率が52.0%となり,有効性は認められなかったが,基肥窒素施肥量の増加と併用すると,低スコア圃場の比率は14.3%で,栽培法を維持した圃場の23.3%より低く,一定の効果が認められた.このように,栽培管理情報を網羅的に収集した圃場別データセットは,改善策の有効性検証においても利用できることが示された.

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© 2022 日本作物学会
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