2022 年 91 巻 3 号 p. 239-245
新潟市砂丘地ではパン用コムギ品種「ゆきちから」の子実灰分が高くなりやすいことが問題になっている.そこで,同地において「ゆきちから」が作付された生産者の圃場を4作期にわたり調査し,生産現場における子実灰分の実態と子実灰分が高くなる条件について検討した.一般に子実灰分との関連が認められることの多い土壌中の可給態リン酸含量は,新潟市砂丘地では子実灰分に寄与しなかった.2018年産では,子実タンパク質含有率と子実灰分の間に相関は認めなかったが,他の3作期では,両者の間に高い正の相関を認めた.これは,2018年産では開花期窒素追肥による千粒重の増加は子実灰分量の増加と相対的に同等で,残りの3作期では子実灰分量に比して相対的に小さかったことに起因した.登熟期における水ポテンシャルは,2018年産では–100 kPaまで低下したのに対し,残りの3作期では–1000 kPaまで低下し,土壌水分は著しく欠乏していた.このことから,登熟期の土壌水分の欠乏は,開花期窒素追肥による千粒重増加を抑制し,子実灰分の増加に寄与することが示唆された.