日本作物学会紀事
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排水が水稲の生育に及ぼす影響 : III. 水稲の養分吸収, 収量および土壌の無機態窒素に対する灌漑法の影響
田中 市郎野島 数馬上村 幸正
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1965 年 33 巻 4 号 p. 335-343

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抄録
水稲の直播栽培における灌漑法の効果を明らかにするため, 早期灌漑, 晩期灌漑, 間断灌漑の3種の灌漑法と窒素の施肥量および耕深を組合せた圃場試験と灌漑に伴なう水の運動と土壌窒素との関係を解析する室内実験とを行なつた. 得られた結果は次の如くである. 1) 一般に水稲の養分吸収は灌漑法および窒素の施肥量によつて影響されるが, 耕深による影響は僅かであつた. 即ち, 早期灌漑区に比して晩期灌漑区の窒素, カリ, マンガンの吸収量は高いが, 燐酸および珪酸の吸収量は低い. また間断灌漑区の窒素, 燐酸, カリ. 珪酸の吸収量はいずれも早期灌漑区より低いが, マンガン吸収のみは逆に著しく高い. また窒素の施肥量の増加に伴つて乾物重が増すので, 各種の無機成分の吸収量は高くなる. 2) 水稲の収量は灌漑法および窒素の施肥量によつて影響されるが, 耕深による差は僅かである. 一般に窒素の施肥量の少い場合間断灌漑区の収量は早期灌漑より著しく低いが, 窒素の施肥量が多くなると両者の差はなくなる. また全重と窒素の施肥量との間には各灌漑法を通じて一次の回帰式がよく適合すること, また玄米重と窒素の施肥量との間には早期および晩期灌漑では二次の回帰式が, 間断灌漑では一次の回帰式が適合した. 3) 灌漑や降雨に伴なう地下水位の変動と透水が土壌の無機態窒素に及ぼす影響を明らかにするためincubation testを行なつた. その結果土壌からの無機態窒素の損失は次のような条件下でおこることを明らかにした. i) 地下水位が-10cmまたはそれより高い場合, ii) 地下水位が周期的に変動し, 土壌が酸化状態と還元状態を繰返した場合, iii) 硝酸態の窒素が湛水および湿潤状態の土壌に施用された場合, iv) 畑状態の土壌が多量の灌漑水や降雨を受けた場合等にみられた. なお畑状態の下ではNH3-N肥料を与えるよりNO3-N肥料を与えたときに土壌の無機態窒素量の著しい増加がみられる場合があつた. 4) 本試験の結果から水稲の収量に対する灌漑の効果は主として灌漑や降雨によつて土壌の無機態窒素量が変化し, それに伴つて稲体の窒素吸収が変化するためにもたらされることを明らかにした.
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