日本作物学会紀事
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光合成の種間差に関する研究 : 第1報 主要な環境要因の変化に対する光合成の反応および維管束鞘の形態からみた種間差について
秋田 重誠宮坂 昭村田 吉男
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1969 年 38 巻 3 号 p. 507-524

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抄録
著者らは, 数種の高等植物を用い, 温度, CO2濃度, 光の強さなどの環境要因の変化が光合成に及ぼす影響について, より総合的に検討し, また, この種間差と葉身の内部形態との関係を明らかにしようとして, 次のような結果を得た。1. CO2濃度以外の環境条件を一定にした場合のCO2濃度の変化と光合成の関係すなわち "CO2カーブ"は種により大きく二つのパターンに分類された. ーつは"CO2カーブ"の立上りが早く比較的低いCO2濃度で飽和に達するもので, ほとんどの南方型牧草がこれに属し, 他は対照的に"CO2カーブ"の立上りが遅く, 比較的高いCO2濃度で飽和に達するもので, 北方型牧草およびイネなどがこれに属する. 2. 南方型牧草類の"CO2カーブ"の形は P=KPlmax(CO2)2/1+K(CO2)2 という式により比較的よく近似できることが示された. 3. 温度に対するみかけの光合成の反応は種により大きく2つのグループにわけられ, 南方型牧草の光合成適温は35℃近辺であつた. これに対し北方型牧草およびイネなどのそれは比較的低くCO2濃度, 光の強さなどにより大きく変動することが示された. CO2濃度が300 ppmの場合には一般に南方型牧草より低い値を示し, この値は光の強さによつても変動し, 光が強くなるにつれて, その値は高くなることが示された. 以上の結果に基づき, みかけの光合成の日変化の種による違いについて考察がなされた. 4. 光に対するみかけの光合成の反応は種により大きく2つのタイプに分けられ, 北方型牧草類はCO2濃度にかかわらず40 klux以上ではほぼ飽和するような"光-光合成カーブ"を示す. 一方南方型牧草類の多くは, CO2濃度が高くなるほど光によるカーブのパターンの変化が小さくなり, 少なくとも40 kluxでは飽和に達しないような"光-光合成カーブ"を示した. 5. 葉緑維管束鞘(chlorophyllous parenchmatous bundle sheath 以下 CPBSと略記する)の存在とCO2補償点(CCP)との関係がDowntonらにより明らかにされたが, この点についてさらに多くの植物について検討した結果, CPBSを有する植物は例外なく低いCCPの値を示し, 光合成の主要な環境要因に対する反応の種による違いとCPBSが密接な関係を有することが確認された. 6. CPBSの有無は分類学上の属のレベルで分類可能であつた. イネ科では亜科のレベルでの分類と平行しているが, 例外もみられ, カヤツリグサ科では同一族内の植物であるにもかかわらず, CPBSの存在する種としない種(タマガヤツリ)が認められた. しかし, CPBSの存在と光合成の生理反応の関係は非常に密接であっで, CPBSの存在と光合成の生理反応の関係における例外はみられなかつた. 7. 本実験の範囲では, CPBSを有する植物と有しない植物との2群に明らかに区別ができ, 両者の中間型のものは認められなかつた. 8. 14CO2を与え, 光合成を行なわせた後, 一定の時間ごとにアルコールで固定して得られた葉について, ミクロオートラジオグラフィーにより, 光合成産物の集積場所を観察した結果, 14CO2を与えて遅くとも5分後にはCPBSのみにアルコール不溶性の光合成産物が蓄積するのが観察された.
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