前報において, 種々の環境要因に対する光合成の反応の違いにより, 陸上高等植物は2群に大別されること, またこの差異はChlorophyllous parenchymatous bundle sheath (CPBS)の有無と密接な関係を示すことを確認した. しかし, 2群の間で光合成の反応が異なる原因については十分な検討はなされなかった. 本実験においては, 光呼吸の植物による差異を明らかにすることを目的とし, 互いに光合成の反応のタイプの異なるダリスグラス, トウモロコシおよびイネ, エンバク, イタリアンライグラス, コムギを用いて, 酸素濃度をほぼ零にし, 光呼吸系をおさえた時の光合成の反応を観察した. その結果, 次のことが明らかにされた. 1. 酸素濃度の変化(酸素濃度21←→0%)に対して光合成は瞬間的に反応し, その反応は可逆性が強いことが示された. しかし, イネ, コムギを材料として長時間の測定を行なつた場合に, 酸素濃度を変化させた時の光合成の応答が不安定となる現象をしばしば認めた. これは, 酸素濃度の変化にともない, グリコール酸の代謝に変化をきたした結果, Zelitchにより指摘されたように気孔の開閉が行なわれたためではないかと推論された. 2. CPBSを有し, 光呼吸を示さないとされているダリスグラス, トウモロコシの"CO
2カーブ"も酸素濃度の影響をうけて, わずかながら変化する. 無酸素空気中では通常の空気中と同様, 2次式により近似できるが, ダリスグラスでは2次式の定数Kは一般に小さくなるに対し, トウモロコシでは変化がみられない. P
maxは, いずれにおいても酸素濃度の低下により大きくなることが認められた. 3. CPBSを有しない植物に属するエンバク, コムギ, イネ, イタリアンライグラスの"CO
2カーブ"は酸素濃度により著しい影響をうけ, 一般に酸素濃度が零の場合には, 普通の空気中の場合に比べ, 見かけの光合成が高い値を示した. また, 酸素濃度が零の時の"CO
2カーブ"の形はダリスグラス, トウモロコシの同一条件のものにほぼ類似し, 2次式で近似できる. 4. CPBSを有する植物と有しない植物とで光合成の温度に対する反応が異なる原因も光呼吸系の有無に関係することが推論された. すなわち, 後者は光呼吸系を有し, その反応系が温度に極めて敏感であつたために普通の空気中では前者と異なつた光合成適温を示すが無酸素空気中で光呼吸をおさえた場合には, 両者の光合成適温はほぼ等しくなる. 5. 上述したように無酸素空気中では, CPBSの有無にかかわらず, "CO
2カーブ", みかけの光合成の適温は種間でほぼ等しくなるが, "光-光合成カーブ"には差異が見られた. すなわち, トウモロコシ, ダリスグラスは普通の空気中と同じような"光-光合成カーブ"を示すのに対し, 北方型牧草類の1つであるエンバクでは, 普通の空気中の場合より, 早く飽和に達するような"光-光合成カーブ"を示した. 6. 強光下では, 酸素濃度を低くして光呼吸系をおさえても光合成量の増加は比較的少ないことがエンバクにおいて示された.
抄録全体を表示