抄録
イネ3品種, Te-Tep・湖南〓・短銀坊主の遊離細胞をもちい, 細胞増殖に関する品種間差異, 2, 4-Dの作用, 接種カルス量の影響について研究した. また増殖にともなう細胞の性質と形態の変化, および脂質体顆粒の消長などについても検討した. 40日間の振とう培養によつて, Te-Tepでは106個/ml以上の遊離細胞が得られ, 著しい細胞増殖はカルス接種後25日間見られた. 短銀坊主でも25日程度の間, 著しい細胞増殖が見られ, 40日後には105から106個/ml以上の遊離細胞が得られた. 湖南〓では15日後に3×104から105個/mlに達するのみで, 以後の増殖は見られなかつた. 振とう培養により形成されるイネの遊離細胞は, 単離生細胞(free living cell), 単離死細胞(free dead cell), 集合生細胞(aggregate living cell), 集合死細胞(aggregate dead cell)の4集団に分けることができる. 遊離細胞中における各集団の割合は, 品種間で差異があり, 経時的にも異なる. Te-Tepと短銀坊主では, 単離生細胞のしめる割合が時とともに増大したが, 湖南〓では減少した. イネの細胞増殖に対し, 培養液の2, 4-D濃度が著しい影響を示した. 2, 4-Dは高濃度でTe-Tepと短銀坊主の細胞増殖に寄与するが, 湖南〓ではその影響が明らかでない. また各品種とも単離生細胞の割合は, 高濃度の場合に経時的に増加した. 一般に, 細胞増殖の著しい条件, すなわち品種および2, 4-D濃度に関し細胞数の増加が著しい場合に, 単離生細胞の割合も増大した. 短銀坊主において, 接種カルス量が多いほど, 遊離細胞数は短時日のうちに多くなり, 2週間後には4×105個/mlに達した場合もあつた. しかし40日後の細胞数に関しては, 接種カルス量により著しい差異が見られなかつた. 単離生細胞内に見られる脂質体顆粒の存在は, イネの細胞増殖に関する生長相と関係がある. 細胞増殖が見られなくなつた直後では, 約50%の細胞中に, この顆粒が存在したが, 増殖が見られなくなつてから, しばらくたつた細胞では, その28%にしか顆粒が存在していなかつた. また脂質体顆粒の大きさも, 生長相と関係がある. 培養初期では直径8μ以上の顆粒が1~2%含まれていたが, 終期では1~3.9μの顆粒が90%をしめていた. このように培養期間が長くなると, 顆粒は次第にちいさくなり消失する. 遊離細胞の形態は経時的に変化する. 培養初期には, 短銀坊主に特長的な細長い細胞が見られたが, 終期には楕円形の細胞が多かつた, すなわち培養終期の細胞長は, 初期の64%に減少し, 細胞の幅は110%に増加した.