抄録
タイ国イネ新旧二品種を供試し, それらの草型のちがいが窒素反応に及ぼす影響を, 集団内の微細気象及び組織形態の面から追究した. 1. 多桿多けつ型の新品種RD-1は典型的な直立葉タイプであり, タイ在来のGR=88は, 水平葉タイプの性質を示した. 2. この草型の差は, 全生育期を通じて大きな影響をもたらした. すなわち, 栄養生長期にはRD-1の葉は, 比較的下位葉まで均一な光を受け, 集団内部における空気の流れもスムーズであつたのに対しGR-88は, 上位葉によるうつ閉のため, 透光量は低下し, 空気の流れも滞つていたと思われる. 又, 施肥量の増加に伴ないGR-88では, 上位葉層部での透光率の低下が認められたがRD-1では認められなかつた. 3. しかし, こういつたRD-1の微細気象上の優位面は, 乾物生産率とは直接結びつかなかつた. これはRD-1において, 草型が改善されたと同時に, 単葉の光合成能力が低下したためではないかと思われる. 4. 一方, 草型のちがいは, 生殖生長期にも大きな影響を与えた. 収量構成要素を比較してみると, 穂数ではRD-1, 一穂当り粒数ではGR-88が優れ, 干粒重にはほとんど差がなかつたが, 登熟歩合はGR-88が著しく劣つていた. GR-88は高い茎重率を示したにもかかわらず, 特に多肥区では倒伏しやすく, その結果, 登熟歩合が低下した. このため収量ではRD-1多肥区, RD-1少肥区, GR-88多肥区, GR-88少肥区の順となつたが, GR-88では多肥区と少肥区での差は少なかつた. 5. 微細気象の面, あるいは植物形態的にも, 直立葉タイプの方が, 物質生産に対して有利であると考えられるが, 更に出穂後の単葉の光合成能力も収量に, 大きな影響を及ぼすと思われる. 今後は, この方面への研究が重要になるだろう.