日本作物学会紀事
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テンサイ種球中の生長阻害物質 : I. 根の生長を阻害する物質としてのシュウ酸一ナトリウムの単離
井上 和雄山本 良三
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1974 年 43 巻 3 号 p. 439-444

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抄録

テンサイ種球中には生長阻害物質が含まれており, 発芽時において発芽および実生の生長を阻害するが, 種球を水で洗うことによって容易にその生長阻害物質を除くことができる. しかしその生長阻害物質については多くの報告があるけれども, それぞれの意見は一致していない. そこで本研究は実生の根の生長を阻害する物質を明らかにするために行なわれた. 1) テンサイ種球の水抽出液は根の生長を阻害し根端を黒変させた. この抽出液ははい軸に対して生長阻害を示さなかったが, 希釈した時にはかえってはい軸の生長を促進させた. 2) 水抽出液からエタノール-氷酢酸-水(8:2:5v/v)を展開剤としたぺーパークロマトグラフィーにより阻害物質を分離した. 根の生長の阻害効果はRF 0.47からRF 0.95の部分でみられ, 最も著しい部分は RF 0.47からRF 0.55であった. またはい軸の生長促進効果は RF 0.55からRF 0.73の部分でみられ, 最も著しい部分は RF 0.55からRF 0.62であった. RF 0.47からRF 0.55の部分からの水溶出液をアセトンで可溶部と沈殿部に分け, 阻害効果のある沈殿部から無色透明の斜方状の結品を得た. この結品は酸性塩であることが確認され, その赤外線吸収スペクトルがシュウ酸一ナトリウムのそれと一致した. したがってテンサイ種球中の主要な阻害物質はこれまでシュウ酸塩として存在していると報告されていたが, その塩はシュウ酸一ナトリウムであることが明らかにされた. シュウ酸一ナトリウムは水抽出液中に根の生長を阻害するのに充分量存在しており, その阻害は水抽出液と同様に根を黒変させる. しかしはい軸の促進効果はもっていなかった. 3) ぺーパークロマトダラムから阻害効果をもつ他の部分に種々のフェノール化合物の存在が確認されたが量的に主要な生長阻害物質ではないと考えられる.

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