日本作物学会紀事
Online ISSN : 1349-0990
Print ISSN : 0011-1848
ISSN-L : 0011-1848
テンサイ種球中の生長阻害物質 : 第3報 テンサイ種球の登熟中における生長阻害物質の推移
井上 和雄山本 良三
著者情報
ジャーナル フリー

1977 年 46 巻 2 号 p. 298-305

詳細
抄録

テンサイ種球中には実生の根の生長を阻害するシュウ酸一ナトリウム, 発芽を阻害する硝酸カリウムおよび数種のフェノール性物質などの生長阻害物質が存在している。本論文ではテンサイ種球の登熟中においてこれらの生長阻害物質がどのように推移するかについて報告する。1) 開花後20日目の種球はまだ十分な発芽能力を持っていないが, 30日目以降ではかなり発芽能力を持っていることを示した。2) 収穫時期を異にした種球からのそれぞれの水抽出液がテンサイ洗浄種球の発芽におよぼす影響は初期のものほど発芽阻害作用は強く, 開花後50日目のものではほとんど発芽阻害作用はみられなかった。テンサイの実生の根の生長におよぼす影響についても同様で後期になるにつれて弱くなっていった。従って種球の登熟が進むにつれて生長阻害物質が減少していくことが認められた。3) これまで見いだされた阻害物質中いずれが変動するかを明らかにするためにぺーパークロマトグラフィーが用いられた。発芽阻害物質としての硝酸カリウムが存在するRf 0.55-0.60の部位が全期間とも最も強い発芽阻害作用を示した。しかし登熟するにつれてその部位の発芽阻害作用は弱くなっていった。従って後期の水抽出液ほど発芽阻害作用が弱くなることは硝酸カリウムの減少によっていることが認められた。また実生の根の生長阻害物質としてのシュウ酸一ナトリムの存在するRf 0.50-0.55の部位の生長阻害作用も後期になるにつれて弱くなり, 開花後50日目のものについてはかなり弱くなった。フェノール性物質等が存在している高いRf値の部位の生長阻害作用は登熟とともに弱くなっているが, シュウ酸一ナトリウムほど著しくはなかった。従って後期の水抽出液ほど実生の根の生長阻害作用が弱くなることはシュウ酸一ナトリウムの減少によっていることが認められた。4) テンサイの登熟期の降雨によって種球中の生長阻害物質が溶脱し, 減少することが考えられたため, 降雨処理実験が行われた。降雨によって種子の発育は若干不良になることが示されたが, 人工降雨区および無降雨区から行られた種球の水抽出液がテンサイ洗浄種球およびテンサイの実生の根の生長におよぼす影響については両区の間で大きな差は認められず, 阻害作用は弱かった。5) 前項の両区から得られた種球の水抽出液を分画するためにぺーパークロマトグラフィーが用いられた。ペーパークロマトグラムの各部位からの水溶出液が発芽および実生の根の生長におよぼす影響をみた場合, 両区の間で差は認められなかった。すなわちテンサイ種球が登熟するにつれてシュウ酸一ナトリウムおよび硝酸カリウムが減少することは降雨によってこれらの生長阻害物質が種球から溶脱するのではないことを示した。

著者関連情報
© 日本作物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top