抄録
前報でテンサイ種球中に存在するシュウ酸一ナトリウムおよび硝酸カリウムは種球の登熟が進むにつれて減少することを報告した。テンサイは最も肥料を多く必要とし, 施肥の効果も顕著な作物であるので登熟期の窒素追肥が種球中の生長阻害物質にどの様な影響をおよぼすかをみるために本実験を行った。1) 1000粒重は窒素追肥区が無追肥区に比較して重いことが示された。2) 無洗浄種球の発芽率は無追肥区が最も良い値を示し, 各窒素追肥区間での差は認められなかった。洗浄種球の発芽率は各区とも良好な値を示したが, 無追肥区では若干低い値を示した。これは無追肥区の種子は窒素追肥区に比較して十分発育していなかったことを示した。3) 各処理区からの種球の水抽出液がテンサイ洗浄種球の発芽およびテンサイの実生の根の生長におよぼす影響は窒素追肥により水抽出液の発芽阻害作用および実生の根の生長阻害作用が強くなることを示した。しかし硝酸カリウムおよび硫安追肥区間では差は認められなかった。4) 各処理区からの種球の水抽出液を分画するためにぺーパークロマトグラフィーが用いられた。ぺーパークロマトグラムの各部位からの水溶出液がテンサイ洗浄種球の発芽におよぼす影響をみた場合, すべての区において硝酸カリウムが存在しているRf 0.55-0.65の部位が他の部位に比較して強い発芽阻害作用をもつことを示した。窒素追肥区においてはいずれも無追肥区より発芽阻害作用は強く, 窒素追肥が多量ほど発芽阻害作用が強いことを示した。このことから登熟期の窒素追肥は種球中の硝酸カリウムを増加させ, 窒素施用量が多量ほどその蓄積は多くなることを示した。5) 同じくぺーパークロマトグラムからの水溶出液がテンサイの実生の根の生長におよぼす影響をみた場合, 無追肥区において生長阻害作用はRf 0.50-0.95の部位でみられるが, シュウ酸一ナトリウムの存在するRf 0.50-0.60の部位の生長阻害作用はフェノール性物質等が存在しているRf値の高い部位より弱いことを示した。しかし窒索追肥区ではシュウ酸一ナトリウムの存在する部分が最も強い生長阻害作用をもつことを示した。従って登熟期の窒素追肥は種球中のシュウ酸一ナトリウムを増加させることを示した。