抄録
前報の実験で得られた材料について, 窒素並びに炭水化物の定量と生長解析を行ない, 苗の剪根が初期生育に及ぼす影響について移植後の体内有機成分の消長との関係から検討した.
1. 移植直後に著しく葉身が萎凋した1cm区と全根剪除区においても, 新根の発生, 生長とともに萎凋が回復し, 移植後1週間目には, 既に葉身の含水量に処理による差異はみられなくなった. また, その後の葉身の含水量にも, 処理区間の差異は認められなかった.
2. 移植後2週間目までは, 各器官の窒素並びに全炭水化物含有率には, 処理区間で一定の傾向はみられなかった. その後, 5cm区および3cmでは, 窒素並びに全炭水化物含有率は無剪根区とほぼ同じ推移を示したのに対して, 1cm区および全根剪除区では, 無剪根区にくらべて窒素 (特に蛋白態窒素) 含有率は高く, 逆に全炭水化物含有率は低く推移した.
3. 各器官の全窒素並びに全炭水化物含有量は, 各器官の乾物重と同様の推移を示した. しかし, 移植後2週間目以降は, 他区にくらべて1cm区および全根剪除区の各器官の窒素の蓄積速度が乾物増加速度を上回り, その結果, C/N比は, 無剪根区≒5cm区≒3 cm>1cm区>全根剪除区の順に大きくなった.
4. 移値後1週間のRGRは, 剪根程度の強い区ほど低い値を示した. しかし, その後, 5cm区および3cm区のRGRは, 無剪根区のRGRとほぼ同じ値で推移したのに対して, 1cm区および全根剪除区では, 移植後3週間目以降, 無剪根区を凌駕した. また, RGRは, NAR, RLGRと有意な正の相関関係を示したが, 特にNARとの相関が高かった.
5. 以上の結果より, 移植後初期の水稲苗の生長速度は, 移植後活着までの葉の萎凋程度の差異と活着後の葉身の窒素 (主として蛋白態窒素) 含有率の差異に基づく葉の光合成能力に大きく支配されていると考えられる.
6. そして, 移植時の苗に3cm以上根が残存していれば, 移植後初期の体内有機成分含有量並びに生長速度に対する剪根の影響はないものと思われる.