抄録
出穂期の窒素追肥が,腹白米の発現を抑制する機作を明らかにするために,登熟過程の腹白発現率,粒の乾物蓄積量,粒・籾殻の含水率,葉身・葉鞘・穂軸・粒の窒素含有量,止葉の光合成速度および粒の呼吸速度などの変化を調べた. 1. 窒素追肥により腹白米発現率は低下したが,その割合は追肥量が増すはど大きかった. また,追肥による影響は上部枝梗粒に比べて,下部枝梗粒で一層顕著であった. 2. 乾燥状態での腹白発現は,窒素追肥区,無追肥区ともに開花後20日目頃からみられた. 一方,新鮮状態での腹白発現は,無追肥区でほ開花後28日目頃からであったのに対して,窒素追肥区ではそれより遅れ,開花後34日目頃からであった. また,腹白は発現開始後,粒の発育とともに発現率を増し,乾燥粒では開花後24日目に早くも最大に達したのに対し,新鮮粒では緩慢ながら完熟期まで増加し続けた. 窒素追肥はこれらの腹白発現の割合を発現開始直後より低下させた. 3. 窒素追肥は,乾燥粒での腹白が増加する期間の粒の乾物蓄積量を高めた. 4. 粒および籾殻の含水率はともに登熟にともなって3段階を経て減少した. 窒素追肥はこの減少傾向を抑制し,登熟中後期から終期にかけて含水率を比較的高く維持させた. 5. 透明化し終えた直後の新鮮粒を人工的に乾燥させると含水率の減少にともなって腹白が発現した. 窒素追肥はこの乾燥過程における腹白発現を抑制するとともに,腹白発現開始時の含水率も低めた. 6. 葉身,葉鞘および穂軸の窒素含有率は登熟が進むとともに減少した. 窒素追肥区のこれらの部位の窒素含有率は無追肥区のものより常に高い値を示した. 7. 出穂後,止葉の光合成速度は次第に低下した. また,粒の呼吸速度ほ開花後8日目に最大に達し,それ以降開花後27日目頃まで急激に減少し,その後漸減した. 窒素追肥を行なった区の止葉の光合成速度および粒の呼吸速度はそれを行なわなかった区のものに比べて,登熟中常に高く推移した. 以上のことから,出穂期の窒素追肥は登熟中後期の稲体の機能衰退を抑制し,乾物生産能力と粒の生理的活性を比較的高く維持することによって,粒内における緊密な貯蔵物質の蓄積と円滑な脱水を促し,腹白米の発現を抑制するのであろうと考察した.