抄録
イネカルスの分化の中でもとりわけ緑化部位形成は著しく高頻度でおこるので詳細な検討が可能であり,この形成が茎葉形成を導びくと推測されている. そこでこの緑化部位形成に対するオーキシン類・サイトカイニン類の効果に関する詳細な検討は,イネカルスの茎葉形成の機構を考える際,重要である. 予備実験の結果,イネカルスの継代を重ねるにつれ,各種器官の形成率の低下とともに,発生した植物体やその植物の種子には各種の異常が多くなることが認められた. イネカルスの緑化の葉緑素組成はイネの葉のそれと同一であった. イネの緑化部位形成はタバコカルスにおける分化と異なり,オーキシンとサイトカイニンの濃度比により単純に制御されるのではなく,これらの物質に対して複雑な対応を示した. この緑化部位形成にはオーキシンが必要であることを指摘した. イネカルスの緑化部位形成の特異性を示すため,イネとヒエのカルスの比較を行った. そのほか,緑化部位形成とこれに影響する各種因子との関連性についてて考察した. 以上のイネカルスの緑化に関する基礎的知見はイネの葉の葉緑体の発生,発達,保持などの問題を解明する上で有用と考えられる.