抄録
小胞子初期の冷温により発生する不受精を, その直後におおまかに予測する方法を提案した. この方法は, 小胞子初期の1~2日後に相当する小胞子中期(小胞子後前期~中中期)に, 葯の形態的異常(小胞子およびタペート細胞の異常)を観察することに基づいている(第1~8図). 葯の形態的異常を定量化するために, 異常単位および異常指数を定義した. 1異常単位は, 光学顕微鏡の焦点面で, 大葯胞の葯腔の1/15の長さを1辺とする長方形の面積である(これは1辺が葯腔の幅とタペート層の厚さの和である正方形の面積にほぼ等しい). 異常単位は1対の大葯胞あるいは小葯胞について観察するので, その最大値は30である. 異常指数は異常単位より以下のようにして求められる: [table] 形態的異常の程度は大葯胞と小葯胞とでは大差があるので, 異常単位あるいは異常指数は大, 小葯胞について別々に求めなければならない. 異常指数は, 大葯胞, 小葯胞および大, 小葯胞の平均値のいずれについても, 冷温処理により増大し, 処理期間が長いほど高く, 不稔歩合と高い相関を示した(第1~3表, 第9図). 実用的には大葯胞のみについて観察すれば十分であると判断された. 形態的異常の程度は, 同程度の不稔であっても品種により異っていた(ゆうなみと農林20号は不稔に対して異常指数が低い傾向にあり, はやゆきは高い傾向を示した)(第3表, 第9図). このような品種の特性を把握しておけば, 予測の精度は向上するであろう. 葯の形態的異常は雄性不稔に直接関与している形質であるから, 異常指数が高いのに不稔が低い場合には, 稔実に有利に働く他の要因を考えなければならない(たとえば, 受粉効率, 花粉発芽率, 花粉管伸長速度など), 不受精をこのような生理的要因に分解して検定することは, 高度耐冷性品種の育成のために役立つと思われる. この論文で提案した不稔の予測法は, 読むと面倒のように思われるかもしれないが, 実際にやってみると意外に簡単であり, 慣れれば1品種10分程度で測定しうる.