抄録
ファイトトロン自然光室(昼24℃・夜19℃)で培養したイネを, 出穂2日後(開花始の前日)より10, 12, 15および17℃の自然光室で2~8日間処理して不稔を誘導した. 稔実歩合は処理日数が長いほど, また処理温度が低いほど低下した(第2図, 4図). 花の冷温感受性は処理開始時における熟度(開花前日数で示す, 第1図)によって異なり, 1穂内で熟度の進んだ花(開花日に近い花)ほど, 冷温処理による稔実歩合の低下が大きかった(第3図, 5図). 12℃12日以内の処理によって誘導される不稔花にたいし, 処理終了日に健全花粉を受粉すると完全に稔実した(第8図). このことは不稔の原因がおしべの側にあることを示す. そこで冷温処理された花の柱頭上の花粉を検鏡した. 処理日数の増加にともなって, 柱頭上花粉数はわずかに, 柱頭上発芽花粉数はいちじるしく減少した(第9図, 10図). 稔実歩合との比較から, 受精のために必要な柱頭上発芽花粉数は, 不稔の程度により5~10個と推定された(第10図). 以上の結果より, 開花期の冷温による不稔は, 花粉発芽能力の低下に起因するものと考えられる.