抄録
パインアップル(スムース・カイエン種 ハワイ系N-76)を水耕栽培し, 窒素栄養(硝酸態窒素)が地上部のガス交換に及ぼす影響を検討した. 根圏の窒素濃度区として, 14, 28, 69, 138, 277, 552ppmの6処理区を設定した. 得られた結果は, 以下のとおりである. 1. いずれの窒素区においても, 明期の後半と暗期にCO2吸収が生じるという, CAM型CO2交換を示した(第1図). 2. 全日と暗期のCO2収支は, 277と138ppmの窒素区で最大となった. 明期の後半のCO2吸収は, 138ppm区で最大となった(第2図). 3. 葉身の全窒素含量・可溶性タンパク含量・クロロフィル含量は, 138と277ppm区で最大となり, 554ppm区では減少した(第3図). 4. 全日と暗期のCO2収支は, 葉身の全窒素, 可溶性タンパク, クロロフィルと正の有意な相関を示した. 明期の後半のCO2吸収量は, 調査した葉身の窒素要因とは有意な相関を示さなかった(第4, 5図). 5. CO2吸収速度と水蒸気交換係数は, 明期の後半と暗期の両方で正の有意な相関を示し, 特に前者での相関の程度が高かった(第7図). 従って, 暗期のCO2吸収は葉内の窒素関連要因によって主に制御をうけ, 明期の後半のCO2吸収は気孔コンダクタンスによって主に制御されるものと推察された. 6. CAM性(全日のCO2収支に占める暗期のCO2吸収の割合)は, 葉身の全窒素含量の増大とともに上昇した(第6図). 7. パインアップルのCO2吸収における窒素利用効率は, 1日当りでは1.9~1.2mgCO2/mgNと小さかった. 暗期と明期の最大CO2吸収速度から求めた最大窒素利用効率は, 暗期で93~120μgCO2/mgN/h, 明期で65~105μgCO2/mgN/hと極めて小さかった(第9図).