抄録
照射光中の青色光(B), 赤色光(R)および遠赤色光(FR)の各成分ならびに成分比に対する作物の生長反応を解明するため, イネ(日本晴), トマト(新豊紀)の幼植物および定植後のイチゴ(宝交早生)を明期を通じて高い放射照度(350または408μmol m-2s-1)の5種類の光質下で育て, 種々な生長形質を調査した. イネとイチゴの伸長生長ならびに葉面積の発達は, 放射照度の増大とともにほぼ直線的にRによって促進され, Bによって抑制された. しかし, トマトの葉面積はむしろそれらと反対の反応を示した. トマトとイチゴの伸長生長はFRの放射照度とともに著しく増大したが, イネではほとんど影響がなかった. 伸長生長と葉面積の発達は, FRと紫外線の影響を除けば, R/B比の対数値とともにイネとイチゴではほぼ直線的に増大したが, トマトではこれらと異なる反応を示した. 一方, R/FR比が小さい場合, トマトでは茎の伸長と葉面積がともに著しく増大したが, イチゴでは葉柄の伸長が促進され葉面積の発達が抑制された. R/FR比に対する伸長および葉面積の反応は, イネとイチゴの間ではそれぞれ反対の傾向を示した. 葉身中の葉緑素含量は, 供試3作物ともR/B比の対数値の増大とともに低下する傾向を示した. 葉身の面積重(単位面積当たりの乾物重)および処理期間中の乾物増加量/葉面積の値はR/BおよびR/FR比とともに増大し, とくにトマトではその程度が大であった. 分光成分比に対する乾物増加量の変化は, 葉面積の反応と基本的に同じであった. これらの事実は, 光合成による物質生産の波長依存性には明らかな種間差がないことを示唆している. 以上の結果に基づいて, 伸長生長および葉面積の発達に関与する光受容体について若干の検討を加えるとともに, 供試各作物の正常な生長を保証するための光質選択の指針を述べた.