抄録
前報14)において水稲の花成を誘導する暗期の計時反応機構の開始には光量のある程度までの低下とともに光質, とりわけ遠赤光が特異的に関与している可能性が示唆された. 本実験では主として感光性の高い水稲品種農林18号を用い, 暗期直前の遠赤光照射が花成反応におよぼす影響について検討した. 1) 暗期前の遠赤光照射の影響は暗期の長さによって異なり, 12時間以下の比較的短い暗期では花成を促進し, 14時間をこえる長い暗期のときは抑制した. 2) 遠赤光による花成の促進または抑制は, 遠赤光照射時間に相当する時間だけ暗期を延長したときの花成反応を凌駕し, さらに促進または抑制の程度は遠赤光により増強された. 3) 10時間暗期直前の遠赤光は2時間まで照射時間の増大にともない花成を促進したが, とくに0.5時間以下の短時間照射の効果が著しかった. 4) 限界暗期より短い9時間以下の暗期でも, その直前に0.5時間以下の遠赤光照射を行うと花成は誘導され, 限界暗期は1時間前後短縮した. 5) 10時間暗期による花成誘導が最少10回の処理周期を必要としたとき, 毎暗期直前に1時間の遠赤光照射を行うと, 僅か3回で花成は誘導され, 必要最少誘導周期数の著しい減少がみられた. 6) 遠赤光の暗期前照射による花成促進は感光性の高い「農林18号」や「瑞豊」ばかりでなく, 感光性程度は低いとされている「こしにしき」, 「トドロキワセ」, 「コシヒカリ」および「ニホンマサリ」など早生品種においてもみられた.