日本作物学会紀事
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イネの開花期冷温処理による不稔 : 第2報 花粉の糖化異常と約の生理活性
小池 説夫佐竹 徹夫
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1987 年 56 巻 4 号 p. 666-672

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抄録
開花期のイネをファイトトロン自然光室で12℃, 2~8日間冷温処理し, 花粉内でんぶん糖化異常の顕微鏡観察と杓の生理的活性の測定を行った. 正常な花粉の発育過程では, でんぷん粒が花粉の中心から端に充満したのち, 発芽孔の反対側ででんぷんが一部消失(糖化)する(第1図). このでんぷん糖化は開頴直前の3~4時間の間に急速におこり, 正常な条件では開頴開始時において70%以上が糖化型花粉であった(第2, 3図). 冷温処理された花粉のでんぶん糖化は花粉壁内側の周辺全体からおこり, 正常な糖化とは明らかに異なる(第1図). この糖化異常は処理中にも一部おこるが, 処理終了後開頴開始までの間に急速に進んだ(第3図). 約当りのでんぶん含量は処理日数の増加に伴って減少し, 可溶性糖含量は一時的に増加した(第6図). これは処理中の花粉でんぶん糖化の顕微鏡観察の結果とよく符号した. ATP含量は冷温処理によって低下しなかった(第9図). これらの事実は, 冷温処理によっても呼吸と炭水化物代謝に関する機能は保持されていることを示し, 処理中に呼吸基質としてでんぷんが一部消費されること, また処理終了後の急速な糖化現象を支持している. しかし, 糖化が正常型と異なって何故異常となるかは, この結果からは説明できなかった. 処理日数の増加による稔実歩合の低下と糖化異常花粉歩合との正の相関関係が認められ(第3, 4図), 冷温処理による糖化異常が花粉の発芽能力の低下の原因と考えられた.
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