抄録
水稲5品種 (日本型3, 日印交雑型2) をポットで土耕栽培し, 穂首分化期より登熟中期に至る期間に, 夜間10℃, 12時間の低夜温処理を行い, それが翌朝の光合成・蒸散作用に及ぼす影響と, 根の呼吸速度ならびに地上部の形質との関連について解析した。処理翌朝に蒸散速度は抑制されたが, 6時間後に無処理の約90%まで回復し, その後はこの値を維持した。処理翌朝の光合成速度と蒸散速度はともに全ての品種および処理時期で無処理の値より低下し, なかでも日印交雑品種の低下度は大であった。また, 相対蒸散速度 (処理/無処理) と相対総光合成速度 (処理後/処理前) とは比例関係が成立し, さらに処理葉の気孔開度は無処理葉より狭搾されていることを認めた。低夜温は翌朝の気孔抵抗を増大させて光合成・蒸散を抑制したと考えられる。相対総光合成速度 (Pg) について, 根の呼吸速度 (R) と比葉面積 (SLA) を説明変数として, 重回帰分析を行なったところ, 重相関係数は0.880であり, Rが大でSLAが小である個体ほどPgは高い値を示した。同様の分析で, 相対蒸散速度はRとSLAならびに1茎当り葉面積の3要因で高い重相関係数0.861が得られた。根部のN含有率および全糖含有率の高いものほど根の呼吸速度は高く (重相関係数0.897), また, 純光合成速度と根の全糖含有率との間には比例関係が成立した。SLAと葉身暗呼吸速度とは負の相関関係があることより, 葉の呼吸活性, 根の呼吸活性がともに高い個体ほど, 低夜温による光合成・蒸散の抑制は軽度であるといえる。