抄録
イネの鞘葉維管束数は通常2本である. しかし,日本型の陸稲品種‘東京藤蔵橘'では2本の通常の維管束以外に1~数本の追加維管束が存在することが知られている. 本研究では,これらの追加維管束の形成に関わる諸要因を検討した. 上記品種を材料に,低温(17/12℃,昼/夜温),高温(30/25℃),全葉身切除,1/2葉身切除,水分欠乏,根切除,無施肥の7種類の処理の影響を調査した. また,これらの外的条件と生長との間を仲介するとみられる植物生長調節物質の影響をみるため,ベンジルアデニン,ジベレリンA3,インドール酢酸,ブラシノライド,アブシジン酸, PP-333 (ジベレリン生合成阻害剤)などの7種類の植物生長調節物質処理の影響を調べた. 処理期間は,いずれも鞘葉維管束が形成される時期を含むように出穂後3日目から13日目までの10日間処理とした. 外的条件の中では,低温処理による追加維管束数の増加が顕著であった. その他の処理ではほとんど効果はなかった. 植物生長調節物質の中ではジベレリンとベンジルアデニン処理による増加が認められたが,それ以外の処理では明らかではなかった. 植物生長調節物質処理については発芽時処理の効果をも併せて検討したが, ジベレリン処理でのみ,増加の傾向が認められた,以上の結果から,主に胚形成時の低温条件が内生ジベレリンなどの植物ホルモンレベルの上昇などを通して追加維管束の形成をもたらすものと推定した. なお,これまで未調査であった浮稲16品種について調査した結果をも併せて報告する.