日本作物学会紀事
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塩分濃度に対するイネの生理反応に関する研究 : 第1報 蒸散とNa+の吸収移行の関係について
土屋 幹夫内藤 整江原 宏小合 龍夫
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1992 年 61 巻 1 号 p. 16-21

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抄録
耐塩性程度の異なる水稲2品種, 耐塩性品種Kala-Rata 1-24 (KR1), 感受性品種IR28を供試し, 異なる大気湿度条件下でNaCl濃度処理を行い, 蒸散とNa+の吸収移行の関係について検討した. その結果, 地上部Na+含有率の増大は低湿度条件下ほど著しく, また, 品種間ではIR28でより著しいことが認められた. 両品種のNa+含有量が蒸散量の大小によって変化し, また蒸散流濃度係数(TSCF)が蒸散量の増大につれて低下したことから, 蒸散量の多少によってNa+の吸収移行における分離排除の効率が変化することが明確になった. また, 同じ蒸散量の場合にはIR28のTSCF値がより低く, 本来的な分離排除の効率はIR28で高いことが明らかになった. しかしながら, KR1では葉面積比率が大きく, また葉内含水率が高いこと, さらにNaCl濃度処理による気孔抵抗の増大が小さく, 蒸散速度が高く維持されることが明らかになり, 同じNaCl濃度および湿度条件下では, IR28よりも個体当りの蒸散量が多く, 相対的にTSCF値が低く維持されているものと考えられた. 以上の結果から, KR1とIR28の耐塩性程度の差異には, NaCl濃度下における蒸散速度の大小に基づく根部でのNa+の分離排除の効率の違いが関与しているものと推察された. そして, 受動的なNa+の吸収移行に対しては, 個体の水収支の環境安定性に係わる形質および蒸散に伴う分離排除機能に係わる形質が強く関与しているものと考えられた.
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