抄録
Inabenfideが水稲の分枝根形成へ及ぼす異なる2つの影響のしかたを, 1/2000 aワグナーポットを5個の部分に分割した特殊な装置を考案し, 分離して検討した. 水稲品種コシヒカリを, ポットの中央に立てた多数の小孔を開けたステンレス円筒に生育させ, Inabenfide処理後に根を周囲の4つの等しい扇形部に伸長させた. 処理ポットでは, 中央部および1個の扇形部を無処理とし, 残りの3個の扇形部に異なる濃度のイナベンフィド(セリタード5粒剤, イナベンフィド含有量5%)の処理を行い, 無処理ポットと比較した. 冠根1本当り分枝根長および単位冠根長当り分枝根長は, いずれも, Inabenfide処理ポットでは, 処理扇形区と同様, 無処理扇形区においても顕著な増加を示した. この場合, 処理ポットの無処理扇形区における増加量の無処理ポットに対する相対比は正の値を示した. 一方, Inabenfideが処理部において及ぼす影響を, 無処理ポットに対する処理ポット内の処理扇形区および無処理扇形区の差の相対比でみると, この比は負の値を示した. また, 単位総根長当り乾物根重の場合には逆の現象が認められた. したがって, イナベンフィドは, 直接的には処理土壌中で分枝根の発育を阻害するが, 処理部以外の部分において分枝根の発育を間接的に促進することが示唆され, 前報で認められた全根系にわたる分枝根形成の促進効果は, 2つのあい反する効果の総合的な結果として現れたものと考えられた.