抄録
出穂期前後における日射量とバイオマス生産との関係を明らかにすることを目的として, 春播コムギ品種ハルユタカを用い, 投下された光合成有効放射 (PAR) の群落における透過率, 反射率および吸収率を測定した. また, 群落におけるPARの吸収量, 個体群生長速度 (CGR) およびPARの乾物転換効率 (EPAR) から上記の関係について検討した. その結果, 群落におけるPAR吸収率は, 出芽期から止葉出葉期にかけて急速に増加し, 止葉出葉期から成熟期にかけてほぼ90%以上で推移した. 群落内部では, 穂による吸収率が30%を越え, 止葉の吸収率は, 葉が開花期から乳熟期にかけて直立から水平に傾くのにともない増加し, 乳熟期から成熟期にかけて水平から下向きに傾くことにともない減少した. 群落の緑色部位におけるPAR吸収量と個体群生長速度との間には, 出穂期前後でそれぞれ異なる2本の回帰直線が得られた. 出穂後は, 穂が群落の上層を覆うことから, 強光条件下では同化量が, 弱光条件下では消耗量が高まるため出穂前に比べ直線の傾きが高かった. EPARは, 生育全般を通じ, 植物体および群落の形態的変化にともない変化することが明らかとなった.