日本作物学会紀事
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62 巻, 2 号
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  • 佐々木 修, 湯田 敦彦, 植木 健至
    1993 年62 巻2 号 p. 157-163
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    塊根の肥大特性の異なる甘藷品種シロユタカとミナミユタカを材料として, 生育の進行に伴う茎葉の発達形態と塊根肥大との関係を明らかにし, さらに品種による特徴の差異を比較した. シロユタカは生育初期に茎葉の発達が著しく促進されたが, これは移植後30日から60日にかけて株元に形成された1次分枝および2次分枝の生長が著しいことによるものであった. これに対してミナミユタカは2次分枝の形成がごく少なく, 茎葉の初期生育はシロユタカに劣っていた. その後, 1次分枝の枯死による乾物重の減少はあるものの, 生育後期までシロユタカの茎葉はミナミユタカより優勢であった. このことに対応して, 塊根の肥大もまた生育初期からシロユタカが優り, その差は生育が進むにつれて拡大する傾向となった. 一方, 株元近傍における分枝の発達と主茎基部直径の増大との間には密接な関係が認められ, 1次分枝および2次分枝を多数形成するシロユタカの方が直径の増大はより著しかった. また, このような直径の増大は2次維管束幅の増大によるものであった. 以上のことから, シロユタカではより早い時期に株元近傍に分枝が多数形成することによって生育初期の茎葉の発達が優勢となり, このことが塊根の肥大にとって有利に働いたのではないかと推察された. また, これと関連して主茎基部直径の増大が物質転流の上から意義があるのではないか考えられた.
  • 上地 由朗, 林 茂一, 堀江 武
    1993 年62 巻2 号 p. 164-171
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    後期重点追肥型とV字型の, 典型的に異なる二つの施肥法のもとで施肥量を変えて, 圃場およびポット栽培した水稲について, 下位節間長の変異を同伸関係にある葉身長, 葉面積および稈基部光環境と関連づけて解析した. まず, 従来から同時伸長性があるとされている上位葉身長と下位節間長の関係を調べたところ, 両者の間には正の相関関係が認められず, 無相関あるいは負の相関関係が存在するものもあった. また, 窒素施肥総量が同じ場合, 後期重点追肥型試験区における下位節間長はV字型試験区におけるそれよりも短かくなった. 後期重点追肥型試験区における窒素追肥は下位節間伸長期間に行われており, したがって, 下位節間伸長は窒素追肥の直接的影響を受けないと推察された. 下位3節間長の和は穂首分化期の葉面積指数との間に正の相関関係が, そして下位節間伸長期間における稈基部の積算日射量との間に負の相関関係が認められた. さらに, ポット試験において稈基部を遮光することにより, 明らかに下位節間は伸長した. 以上のことから, 水稲における下位節間長変異の要因として, 下位節間伸長期における群落の光環境が重要であり, 多窒素は茎葉を繁茂させることにより, この光環境の悪化をまねくと考えられた.
  • 土屋 哲郎, 松田 智明, 長南 信雄
    1993 年62 巻2 号 p. 172-182
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ジャガイモ塊茎の維管束の分布と連絡を, 連続切片を作製して光学顕微鏡で観察した. ストロン着生部から塊茎に入った維管束は皮層の外篩部, 維管束環の複並立維管束, 周辺髄の内篩部と分かれる. 皮層の外篩部と維管束環の維管束はいずれも周皮と平行な網状の分岐・連絡をもっており, 周辺髄の内篩部では目 (側芽) に向かう篩部と塊茎の中心方向に向かう篩部とが立体的な網状の連絡をもっている. 維管束環の外篩部と内篩部は, それぞれ皮層の外篩部および周辺髄の内篩部と, いずれも放射方向の連絡をもっている. 周辺髄は射出髄によって地上茎の島状の維管束に対応する房に区切られているが, これらの房は目の基部で互いに分離融合をしている. 急速肥大期の観察によると, 塊茎内各組織のデンプン密度は維管束の分布と関係があり, 皮層と周辺髄の篩部の周囲で特に高く, 維管束の分布しない中心髄では低いことが示された. このような維管束の分布と走向から, 塊茎肥大期における塊茎内での同化産物の転流経路を推定した. また, 塊茎内各組織の維管束の分布とデンプン蓄積の関係について検討した.
  • 佐藤 暁子, 小柳 敦史, 和田 道宏, 松田 智明
    1993 年62 巻2 号 p. 183-187
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    異なる土壌に生育したコムギ品種農林61号の胚乳と粉の微細構造を走査型電子顕微鏡により観察し, 製粉歩留の高いカナダ産硬質コムギと比較検討した. 農林61号では灰色低地土で生育し粗タンパク含量が中程度の子実に比べ, 赤色土で生育し粗タンパク含量の低い子実では, 胚乳と粉の内部に空隙が多く1次, 2次デンプン粒が明瞭に認められた. 一方, 黒ボク土で生育し粗タンパク含量が高い子実では, 胚乳と粉の内部に空隙が少なく, デンプン粒間にはprotein matrixが多く, デンプン粒の抜け落ちた跡が鋳型状にprotein matrix上に明瞭に認められた. 赤色土に堆肥施用と窒素追肥の土壌改善を行い, 粗タンパク含量が増加した子実では, 胚乳や粉のデンプン粒間の空隙をうめるようにprotein matrixが増加した. このように土壌や窒素施肥の違いにより胚乳や粉の微細構造はかなり異なったが, 製粉歩留や粉の比表面積には違いがなかった. 一方, 粗タンパク含量が高く製粉歩留が高いカナダ産硬質小麦の胚乳や粉では, デンプン粒は板状のprotein matrixの中に塗り固められ, デンプン粒が識別しにくかった. また, その粉では, ひとつの細胞そのものが粉の粒子となっているものも多かった. これらのことから, コムギの製粉性や粉の形状の違いにはprotein matrixの量よりもそのデンプン粒を結合する物理的性質の違いの影響が大きいと考えられた.
  • 福田 晟, 山谷 聡, 小葉田 亨, 今木 正
    1993 年62 巻2 号 p. 188-192
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    冬期山陰地方の強風下で発生する葉枯れ, 落葉などの被害がどの様な理由で発生するのかを水分生理学的観点から明らかにしようとした. 冬期地上に少残雪, 強風が吹いた日 (気温0℃~-4.4℃, 風速4~7ms-1) は, 葉身水ポテンシャル (ΨL) が夜間から翌日の日中にかけて-1.2~-2.3MPaと著しく低下し, 翌日, 葉身の枯死が生じた. この気象条件は茶樹に凍害が生じるより気温が高い. 一方, 冬期被害が出ない日, あるいは夏期でもΨLは-1.0~-1.1MPaまでしか低下しなかった. 一方, 圃場と同齢の葉身を加圧して, 脱水圧と葉身の枯死との関係を見ると, 冬期の葉で-1.0MPa, 夏期の葉で-1.8MPaで枯れはじめ, 冬期の葉はわずかな脱水でも枯れやすいことがわかった. 以上から, 寒風により被害の発生する日は, 低温, 強風により茶樹の水分欠乏状態が著しくなること, さらに冬期の葉はわずかな脱水によっても枯れやすいために被害が促進されることが推定された.
  • 福田 晟, 山谷 聡, 小葉田 亨, 今木 正
    1993 年62 巻2 号 p. 193-198
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    前報において, 地表にわずかな積雪があり, 気温0~-4.4℃, 風速4~7ms-1のもとで葉身に葉枯れ, 落葉が生じ, この時夜間の葉身水ポテンシャル (ΨL) が-1.2MPaに, 翌日の昼間ではさらに最低-2.3MPaまで低下したことを報告した. そこで本報告は, 人工的に1年生苗の茶樹に低気・地温, 強風条件を与え, ΨLの低下と寒風による被害発生との関係, 及びΨLの低下の原因を明らかにしようとした. その結果, 低気・地温, 強風の組み合わせに暗黒後照明条件のもとでΨLは-0.7~-1.8MPaに低下し, 照明条件下で圃場と類似した枯死被害が生じた. また, 低温照明条件下では蒸散速度の増大に伴うΨLの低下が大きいことから, このΨLの著しい低下は低温による植物体内の水の通導抵抗 (R) の増大にもとずくものと考えられた. そこでさらに葉身, 茎, 根各部分への加圧と出液速度との関係を求めて各器官のRを推定したところ, 葉身と根のRは0℃では10℃に比較し約1.6倍, 20℃に比較して約3.2倍大きくなった. 以上から, 山陰地域における茶樹の寒風による被害は低気・地温によって特に葉身と根のRが著しく増大している時に, 強風, 及び翌日の日射により蒸散が促進されて, その結果, 葉身ΨLの著しい低下, 葉身組織の脱水が生じて引き起こされるものと推定された.
  • 津田 誠
    1993 年62 巻2 号 p. 199-205
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    イネにおいて不完全米の発生は水ストレスを与える時期によって異なる. 玄米の生長は登熟期間の乾物供給量に規定されることから, 不完全米発生の差異は登熟期間の乾物生産量に左右されると考えられた. そこでこのことを実験的に検討するために水田土壌を詰めた1/5000aポットに水稲 (品種コシヒカリ) を湛水栽培し, 異なる発育段階 (出穂前15日目, 出穂後2日目と12日目) に給水量を前日の蒸発散量の60%に制限する処理を1週間行った. その結果, 登熟期間の乾物生産量は出穂前の水ストレスによって殆ど変わらなかったものの, 出穂後の水ストレスによって大きく低下した. 出穂前の水ストレス条件下では乾物生産量にかかわらず, 個体当り籾数の低下と籾殻の縮小によって個体当り穂重が低下した. これに対して, 出穂後の水ストレス条件下では乾物生産量の低下に伴い個体当り穂重が低下した. これと同時に一稔実籾重が低下し, 比重0.84から1.06までの籾が増加した. 比重0.84から1.06までの籾は, デンプンの蓄積が不十分な不完全米を内包する. 以上より, 水ストレスは幼穂発育初期では個体当り籾数の低下と籾殻の縮小を介して, 出穂後では玄米のデンプン蓄積の不足を介して, 精籾生産を抑制することがわかった.
  • 佐藤 暁子, 末永 一博, 川口 數美
    1993 年62 巻2 号 p. 206-210
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    コムギの生育時期別に遮光処理を行い, 主な分げつの穂の諸形質がどの生育時期までに確定するのかについて検討した. 穂数は穂揃期まで遮光処理の影響を受けて減少したが, T3の有効化率の減少が大きく, M, T1及びT2の有効化率の減少は小さかった. 小穂数は, その茎が幼穂分化程度IX期に達する時期まで遮光処理の影響を受け減少した. 従って, 穎花分化の遅れるT3はM, T1及びT2に比べ遅くまで遮光処理の影響を受け小穂数が減少した. 各分げつの不稔実小穂数は穂揃期頃まで遮光の影響を受け減少し, 稔実小穂あたり粒数は穂揃2週間前~登熟期間, 千粒重は登熟期間を通じて遮光処理の影響を受け減少した.
  • 前田 和美
    1993 年62 巻2 号 p. 211-221
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    地下結実性の落花生の茎系は, シンクの莢実を地上で機械的に支持する役割は不要であろう. 茎系 (葉柄を含む) への乾物分配割合の減少と子実収量との関係を明らかにするために, 3か年にわたり, 延べ27品種を用いて, 子実収量と, 栽培的特性, 器官別乾物重, 収量構成要素, 品種の亜種区分などとの関係を調べた. 子実収量3000kg ha-1以上の多収を示した品種は, わが国のワセダイリュウ, サチホマレ, タチマサリ, ナカテユタカなど, 2亜種間の複交配によって育成された品種であった. これらの品種は, 分枝数の減少で茎系への乾物分配割合が低下し, 大粒化とあわせて, 高い粒茎比 (2~3) と収穫指数 (30~40%) を示した. これらの特性は, 早生性と立性の草型とともに, 亜種fastigiataの特性が大粒性品種 (亜種 hypogaea) との反復交配によってもたらされたと考えられ, 多収化における亜種fastigiataの寄与が認められた. そして, 落花生の"Ideotype"の特性として, 1株の1次分枝数が10本以下, 茎重は50g以下, 茎系乾物割合は20%以下, 子実100粒重は約70g以上で, かつ粒茎比が2~3以上となるような生育が必要であることが示唆された.
  • 有馬 進, 原田 二郎, 田中 典幸, 岡 清司
    1993 年62 巻2 号 p. 222-227
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    トウビシの花芽の着節様式と葉の発育に及ぼす日長の影響を明らかにするために, 浮葉期後期に達したトウビシに24時間周期で人為的に7段階の明期 (9, 11, 13, 13.5, 14, 15, 17時間) の日長処理を6月26日から8月26日までの2ヵ月間実施した. トウビシは明期が14時間以下の短日条件下で花芽を形成した. また, 形成された花芽の着節様式は日長によって変化した. すなわち, 14時間以下の日長では, 茎軸上における有花節部と無花節部が交互に現れる周期はほとんど変化しなかったが, 日長が短くなるほど有花節部の節数は増加し, 無花節部の節数は減少した. したがって, 1葉冠の単位節数当りの有花節数は短日となるほど増加することが明らかとなった. 一方, 明期の短縮に伴って葉の生長は劣り, 個葉は小さく, 1葉冠当りの葉数は増すものの, 葉冠の大きさは小さくなる傾向を示した. さらに, 開花節位前後に達した花芽は, 葉と同様に短日処理下で小さくなる傾向を示した. このことから著しい短日条件では果実の発育が制限される可能性が示唆された.
  • 金 留福, 花田 毅一
    1993 年62 巻2 号 p. 228-235
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲の分げつの発育に及ぼすサイトカイニンの影響を知るため, 水稲を水耕栽培し, 光強度, 窒素濃度などが異なる条件下でカイネチンを水耕液に加えて根から吸収させ, 植物体の生長, 分げつの出現率, 葉齢, 長さなどに対する影響を観察した. また, 異なる要素根からカイネチンを吸収させた時の影響の差異について観察した. 草丈, 苗齢, 葉長などは光強度, 窒素濃度, 吸収要素根を問わずカイネチンによって抑制され, 根数, 根長も少数の例外を除き抑制された. 分げつに対する影響は光条件によって大きく異なり, 自然光下ではカイネチンが分げつ数の増加を抑制し, 分げつの葉齢や長さに対しても一部の例外を除き抑制の傾向を示したが, 遮光下では分げつ数の増加を促進し, また分げつの葉齢や長さにも顕著な促進を示した. 遮光下で出現率が小さかった第2節, 第3節分げつは, カイネチン処理時既に発育を停止していたとみられるが, このような分げつ芽に対しカイネチンが発育を促進して出現率を高めた. 異なる要素根からカイネチンを吸収させても各節分げつに対する影響にはほとんど差異がなかった.
  • 西村 実
    1993 年62 巻2 号 p. 236-241
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    寒地の水稲育種における穂ばらみ期耐冷性簡易検定法を開発することを目的として, 圃場で栽培したイネの穂を止葉節をつけたまま抜きとり, 水道水を入れた容器中で培養し, 止葉節からの発根速度と穂ばらみ期耐冷性との関係に及ぼす諸条件ならびにその遺伝について検討した. 品種間差を明確にするためには培養水温は25ないし30℃程度が適当であり, 培養には生育時期の揃え易い出穂直後が適当と考えられた. 出穂前に稲体に冷水掛け流し処理を行い低温ストレスを与えると, 発根速度が明らかに低下した. 73の北海道品種・系統を用いて発根速度を調べたところ, 穂ばらみ期耐冷性の強さと発根のし易さとの間に明らかに正の相関が認められた. しかし, いくつかの品種ではこの関係が認められなかった. 穂ばらみ期耐冷性程度が異なる2品種の交雑後代を用いて発根速度と穂ばらみ期耐冷性との関係について検討した. 供試世代がF2, F3およびF4の初期世代であり, 固定度が低いため, 両者の関係は明瞭ではなかった. 以上のように止葉節からの発根速度は穂ばらみ期耐冷性と関係が深いことが示されたが, 今後は両者の関係について遺伝的および生理的研究を進める必要がある.
  • 西村 実
    1993 年62 巻2 号 p. 242-247
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    北海道農業試験場の水稲作では1986年には早生品種, 1987年には中晩生品種を中心として障害不稔が多発し, これらの品種において食味の低下が認められた. 障害不稔と食味低下の因果関係を調べるために, 両年次において普通水田および長期冷水掛流し水田に栽培した13~31品種・系統の白米についてアミロースおよびたんぱく含量ならびに官能試験による食味を調べた. 不稔発生の顕著な品種・系統は官能試験による食味が通常の評価より低く, たんぱく含量も高かった. これらの品種・系統は不稔発生が軽微な品種に比べてアミロース含量が低く, 食味低下とアミロース含量とは関係が小さいものと考えられた. 長期冷水掛流し法に基づく低温処理により人為的に不稔を発生させるといずれの品種・系統においてもたんぱく含量が増加した. しかも低温ストレスが大きく, 不稔程度が大きい場合ほどたんぱく含量は高い傾向にあった. このように障害不稔多発による食味低下の主因はたんぱく含量の増大とみられ, これは出穂前に貯えられた稲体窒素が出穂後の稔実粒に分配される場合, 稔実粒数が少ないほど1粒当たりの窒素分配量が多くなり, その結果たんぱく含量が増大することによるものと考えられた. 今後の良食味育種の基本としては穂ばらみ期耐冷性の強化が欠かせないものと考える.
  • 窪田 文武, 飯塚 恵治, 縣 和一
    1993 年62 巻2 号 p. 248-256
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    一葉挿し接木植物における光合成と根重生産をシンク・ソース関係の視点から解析, 論議した. コガネセンガン (K), シロユタカ (S), 紅赤 (B) および蔓無源氏 (T) の4品種を接穂と台木として正逆に組合せ, 16組の接木植物を作り供試材料とした. 根重 (RX/Y) に及ぼすシンクとソースの個別および組合わせ効果を解析にするため, 数学モデルを創出し, 接穂効果 (EX/*) と台木効果 (E*/Y) および両者の組合せで生じる一般組合せ効果 (GCEX/Y) と特定組合せ効果 (SCEX/Y) を算出した. 下式にこれらの関係を示す. RX/*=EX/*+R*/*:R*/Y=E*/Y+R*/*:GCEX/Y=(EX/*+E*/Y)/2:RX/Y=GCEX/Y+SCEX/Y+R*/*:ここで, RX/Yは品種 (X) を接穂, 品種 (Y) を台木とした植物の根重である. RX/*とR*/Yは, それぞれ品種 (X) を接穂あるいは品種 (Y) を台木にした植物の平均根重である. また, R*/*は16組合せ全植物の平均根重である. KまたはBを接穂に用いると根重が増加し, 正の接穂効果が得られた. Kの台木効果も正の値であった. Tにおける両効果はともに小さく, 負の値であった. 一般組合せ効果と特定組合せ効果は正の相関関係にあったが, 例外 (T/SとT/T) も認められた. 光合成速度は, Kを台木あるいは接穂に用いると高くなった. T/SとT/Tの光合成速度は特に低い値であった. 光合成速度と根重とは限られた範囲内では正の相関関係にあった. Tを台木にした組合せやT/Sでは葉柄重が増加した. 根のシンク能が制限される場合では葉柄がシンクとして機能した.
  • 佐藤 暁子, 小柳 敦史, 和田 道宏
    1993 年62 巻2 号 p. 257-260
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    低リン酸濃度適応性の異なるコムギ品種を用いて, 圃場における分げつの出現率と地上部及び根部のリン, 窒素, カリウム含有率との関係を検討した. リン酸の不足する黒ボク土に対照区とリン酸増肥区を設けて栽培し, 主稈の第1葉の葉腋から出現する分げつ (T1) の出現率を調べた. その結果, 供試した3品種ともリン酸の不足する対照区で, 地上部及び根部のリン含有率が低かったが, 低リン酸濃度適応性が低いアサカゼコムギと農林61号では地上部のリン含有率が0.5%以下になるとT1の出現率が低下するのに対し, 低リン酸濃度適応性が高い農林64号はリン含有率が0.3%以下になってもT1の出現率はほとんど低下しなかった. なお, 地上部の窒素, カリウム含有率もリン酸増肥に伴って増加したが, 偏相関係数を検討した結果, 分げつ出現にはリン含有率が最も影響が大きいと考えられた. これらのことから, リン酸欠乏土壌で農林64号のT1の出現率が高いのは, リン吸収能が高いことによるのではなく, リン含有率が低くても分げつ能力が高いことによると考えられた.
  • 長谷川 浩, 金 忠男, 河野 恭広
    1993 年62 巻2 号 p. 261-266
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    F1雑種水稲の活発な生長に対して根系の発達と機能とが密接に関与していると考えられるが, このような視点からの研究は少ない. そこで, 本研究は30日間水耕液で育てたジャポニカ/インディカF1種水稲の幼植物における根系発達を明らかにするために行われた. 節根1本当たりの乾物重は播種後10日目を除き, 常に両親よりF1雑種で高かった. 播種後20日目の根系を側根まで実測したところ, F1雑種は両親と比べて節根1本当たりの全根長が長くて全根数が多かった. 根系全体から見ると, F1雑種の全根長, 根系乾物重および全根数は両親のそれらを大きく上回り, Heterobeltiosis (=F1雑種/優良親×100) はそれぞれ168, 123, 139に達した. その結果, F1雑種の根系は両親のそれより重いだけでなく, 全根長/根系乾物重比 (Specific root length) においても両親のそれを上回った. このことは, F1雑種は両親と比べて乾物から根長への転換効率が高いことを示唆している.
  • 天野 高久, 朱 慶森, 王 余龍, 井上 直人, 田中 英彦
    1993 年62 巻2 号 p. 267-274
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    江蘇省連雲港市において1991年にハイブリッドライス汕優63号によって得られた玄米収量965gm-2の子実生産特性を解析した. 出穂期までに21gm-2の窒素を吸収し, m2当たり50,360粒のもみを得た. 吸収窒素のもみ数生産効率は西日本並みであった. 出穂前10日間の葉面積指数は10.18に達した. 出穂期前の蓄積同化産物の移行量の増加が登熟歩合の向上に働いていた. 出穂期前に茎葉に蓄積された同化産物の穂への移行量の増加が中国の水稲栽培において著しい増収をもたらしていると考えられた.
  • 天野 高久, 朱 慶森, 王 余龍, 井上 直人, 田中 英彦
    1993 年62 巻2 号 p. 275-281
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    多収水稲の倒伏抵抗性を明らかにするために, 汕優63号 (玄米収量965gm-2) の倒伏関連形質を解析した. 汕優63号の外部形態には倒れやすい要素が多かった. 第4節間 (N4) の成熟期の倒伏指数 (支点間距離5cm) は200を越えた. 汕優63号の多収は倒伏に関してきわめて危険な状況下で得られたものである. 倒伏指数の増大はモーメントに対して挫折抵抗が相対的に低いためであった. 汕優63号において挫折抵抗が低いのは葉鞘+稈の非構造性炭水化物 (NSC) および窒素 (N) の穂への移行率が高いこと, N4以下の単位長さ当たり乾物重が成熟期に著しく低下する特性と関連していた. 安定して多収を得るためには, 葉鞘+稈にさらに多くのNSC, Nを蓄えるように栽培技術の改善が必要であると考えられた.
  • 佐藤 肇
    1993 年62 巻2 号 p. 282-287
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ポット栽培したインゲンマメの2品種 (姫手亡と大正金時) を材料として, 水の葉面散布による葉温の変化に対する側小葉の傾斜反応を, 強い土壌水分ストレス状態において検討した. 水を散布しなかった小葉は大きく傾斜し, 著しい水分ストレス状態にあることを示した. また, すべての側小葉が頂小葉の方向に傾斜することが認められた. この状態における水の散布処理は, 小葉の横向き傾斜角を5分間で約20度急激に減少させたが, 上下傾斜角にはほとんど影響しなかった. この反応は2つの品種で同様に認められた. また, 水を散布しなかった状態で気温より高かった葉温は, 散布処理直後から5℃以上急激に低下した. 一方, 有意ではなかったが, 水の散布処理により小葉の気孔がわずかに開き, 葉の水ポテンシャルもわずかに低下することが認められた. 以上の結果から, 側小葉の光忌避反応が, 水分ストレスではなく温度の変化と関係し, 内生的方向性を示す横向き傾斜の変化によって起こることが明らかになった. この水の散布処理による横向き傾斜角の減少は, 小葉の葉身よりも葉枕の温度低下が直接の原因であることが推察された.
  • 田中 実秋, 山内 章, 河野 恭廣
    1993 年62 巻2 号 p. 288-293
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    植物の根の形態は養分条件によって変化する. この実験では, 水耕液中のアンモニア態窒素の濃度が水稲種子根の伸長に及ぼす影響を検討した. 耐肥性の異なる水稲10品種を30℃のグロースキャビネット中で, 春日井氏A液を用いて12日間生育させた. 先ず, 窒素濃度を0, 4, 40, 240mg L-1の4段階に設定した. 全ての品種の種子根は窒素濃度が上がるにつれて伸長は指数関数的に抑制された. その抑制反応は0~4mg L-1で発現し始め, 抑制程度も顕著であることを認めた. そこで, 窒素濃度を0, 0.4, 1, 2, 3, 4mg L-1と設定して再度実験を行った. その結果, 種子根の伸長は窒素濃度が上がるにつれて直線的に抑制された. そこで窒素濃度に対する種子根の伸長抑制程度を数値化し, 品種間比較を容易にするために, 窒素濃度と種子根長との関係を回帰直線式に整理した. それぞれの回帰直線の勾配の値は, 各品種の種子根の伸長の抑制程度を表しており, この値に明白な品種間差異が認められた. 勾配の値は, 耐肥性の小さい品種群に比べて耐肥性の大きな品種群で小さい傾向を認めた. また, 0mg L-1での種子根長にも同様の傾向を認めた.
  • 中久 加菜, 続 栄治, 三溝 孝司
    1993 年62 巻2 号 p. 294-299
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    アルファルファのアレロパシー現象を解明する目的のもとにアルファルファの植生土壌並びにアルファルファの水及びメタノール抽出液を用いて圃場及び室内実験を実施した. アルファルファの植生土壌はダイコンの出芽を抑え, アルファルファ及びダイコンの初期生育を抑制した. アルファルファの植生土壌のメタノール抽出液はアルファルファ及びダイコンの初期生育を著しく抑制した. アルファルファの地上部を土壌に混和し, アルファルファ及びダイコンの発芽ならびに初期生育を調査した結果, アルファルファの土壌混和処理はアルファルファ及びダイコンの発芽を抑制し, ダイコンの初期生育を抑制した. アルファルファの植生土壌及びその地上部のメタノール抽出液にはアレロパシー物質が存在し, これらの化学物質の中にはフェノール系化合物が含まれていることが示唆された.
  • 礒田 昭弘, 吉村 登雄, 石川 敏雄, 野島 博, 高崎 康夫
    1993 年62 巻2 号 p. 300-305
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ラッカセイの葉の調位運動が受光量に及ぼす影響を見るため, 栽植密度の異なった群落を防雀網で調位運動を抑える処理を行ない, 受光量を測定した. 用いた品種はナカテユタカで, 20cm (20cm区), 30cm (30cm区), 40cm (40cm区) の正方形に播種した. 8月7, 8日に処理を行ない, 群落中の1個体の小葉に簡易積算日射計をはり受光量を測定した. 朝夕, 上層の小葉は太陽光線と垂直に近い向きを示したが, 昼間は立ち上がり, 太陽光線と平行に近い向きを示した. 平均小葉面受光量および単位土地面積当たりの受光量は, 20cm区では無処理区が大きくなったが, 30cm区では等しく (葉面積を同じとして計算した場合), 40cm区では処理区の方が大きくなり, 葉が立ち上がることにより疎植区では受光できずに地面に透過する光が多いことがわかった. 層別受光量は, 20cm区では無処理区は中層がもっとも大きく, 処理区は上層部が大きくなり, 葉の立ち上がりにより中層部の受光量が大きくなることがわかった. 30cm区では無処理区は下層部がもっとも大きく, 処理区は中層部が大きかった. 40cm区でも無処理区は下層部が大きく, 処理区は上層部が大きかった. ラッカセイの葉の調位運動が受光量に及ぼす影響は, 葉群構造および葉群密度によって異なり, 密植区ほど葉の立ち上がりにより過繁茂状態が緩和され中層の受光量が大きくなり, 疎植区では受光量が減少することが認められた.
  • 礒田 昭弘, 吉村 登雄, 石川 敏雄, 王 培武, 野島 博, 高崎 康夫
    1993 年62 巻2 号 p. 306-312
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ダイズの葉の調位運動が受光量に及ぼす影響を見るため, 栽植密度の異なった群落を防雀網で抑える処理を行い, 小葉の受光量を簡易積算日射計で測定した. 用いた品種はナンブシロメとミヤギシロメで, 30cm (30cm区), 40cm (40cm区) の正方形に播種した. 8月14日, 15日に処理を行い, 各区より2個体選び全小葉の2日間の受光量を測定した. 同時にナンブシロメの30cm区の葉温を測定した. また, 相互遮蔽の無い状態での受光量を推定するため, ポッ卜で生育させた孤立個体の受光量についても測定した. 両品種とも平均小葉面受光量および単位土地面積当たり受光量は処理区の方が高い値を示し, 処理区間の差は30cm区で大きかった. ナンブシロメはミヤギシロメに比べ平均小葉面受光量が大きく, 各層の受光量も大きかった. 孤立個体の平均小葉面受光量は, いずれの層もミヤギシロメが小さく, 孤立個体内での遮蔽も大きいものと考えられた. 葉群構造は両品種とも上層に葉群が集中したが, 特にミヤギシロメは葉面積指数が大きく相互遮蔽が激しかった. 処理区の最上層の葉温は朝7時以降気温より高く推移したが, 無処理区では気温とほぼ同様の推移を示した. 以上のことからダイズの葉の調位運動は早朝と夕方遅くを除き, 基本的には強い太陽光線から逃れようとする運動であり, 葉温を下げる効果があるが, 同時に受光量を調節して減少させる影響を持っていることがわかった.
  • 高橋 肇, 中世古 公男
    1993 年62 巻2 号 p. 313-318
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    出穂期前後における日射量とバイオマス生産との関係を明らかにすることを目的として, 春播コムギ品種ハルユタカを用い, 投下された光合成有効放射 (PAR) の群落における透過率, 反射率および吸収率を測定した. また, 群落におけるPARの吸収量, 個体群生長速度 (CGR) およびPARの乾物転換効率 (EPAR) から上記の関係について検討した. その結果, 群落におけるPAR吸収率は, 出芽期から止葉出葉期にかけて急速に増加し, 止葉出葉期から成熟期にかけてほぼ90%以上で推移した. 群落内部では, 穂による吸収率が30%を越え, 止葉の吸収率は, 葉が開花期から乳熟期にかけて直立から水平に傾くのにともない増加し, 乳熟期から成熟期にかけて水平から下向きに傾くことにともない減少した. 群落の緑色部位におけるPAR吸収量と個体群生長速度との間には, 出穂期前後でそれぞれ異なる2本の回帰直線が得られた. 出穂後は, 穂が群落の上層を覆うことから, 強光条件下では同化量が, 弱光条件下では消耗量が高まるため出穂前に比べ直線の傾きが高かった. EPARは, 生育全般を通じ, 植物体および群落の形態的変化にともない変化することが明らかとなった.
  • 高橋 肇, 土橋 直之, 中世古 公男
    1993 年62 巻2 号 p. 319-323
    発行日: 1993/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    コムギ群落の同化器官の能力および活性を評価することを目的として, 圃場条件下における春播コムギ品種ハルユタカの群落において葉身および穂の窒素含有率および可溶性糖含有量を測定し, 同化能力との関係について検討した. 葉身の窒素含有率は, 強光条件下 (PARが1500μmol m-2s-1以上) で測定した光合成速度 (CER) と高い正の相関関係が認められ (r=0.963***), 潜在的な光合成能力を示すことが明らかとなった. これに対し, 葉身の糖分の日中増加量は, 群落条件下において測定したCERと高い正の相関関係を示し (r=0.760***), リアルタイムの同化活性を示すことが明らかとなった. また, 葉身の光合成速度は, その潜在的な能力が止葉と第2葉でほぼ等しかったのに対し, リアルタイムの活性は第2葉が止葉により遮光されることから低かった. 一方, 穂は, 直接にCERを測定していないものの, 窒素の総含有量および糖分の日中増加量が葉身に比べ著しく高いことから, これまでの他の研究者による報告と同様, その光合成が子実生産に大きく貢献しているものと推察された.
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