抄録
水稲の葉面積は, 生育診断や生育予測にとって, また乾物生産特性を明らかにするためにも重要な調査形質である. しかし, その調査には多くの時間と労力を必要とし, 十分な精度を保った調査の実施は困難となってきている. このため, 一定水準以上の信頼性を確保した, 簡便で効率的な葉面積の調査法が必要となっている. 各農業試験研究機関においても, 調査の省力化が図られているが, 調査精度について十分な統計的検証を行った例はほとんど見られない. 本報では, 葉面積の推定の一部に重複抽出による比推定法を組み込んだときの標本数, 精度, 所要時間を調査・解析して, その有効性を精度の確保と省力化の両面から検討した. 葉面積だけを調査対象とする場合には, 生体重を補助量とした重複抽出による比推定法で推定した葉身乾物重とSLA(葉身乾物重1g当たりの葉面積)から葉面積を推定する方法は, 調査の効率化に有効と判断された. この場合, 目標精度を満たす推定値を得るための所要時間は, 標本調査の原則である単純推定法のそれに比べて最高分げつ期では44%に, 穂揃期では63%にそれぞれ短縮された. さらに, 葉面積に加えて乾物重も調査対象とする場合には, 生体重を補助量とした重複抽出による比推定法で推定した乾物重と葉身重割合とSLAから葉面積を推定する方法は, 調査の効率化に有効と判断された. この場合, 目標精度を満たす推定値を得るための所要時間は, 単純推定法のそれに比べて最高分げつ期では30%に, 穂揃期では75%にそれぞれ短縮された.