抄録
春播コムギの登熟機構を生理的・形態的に解明することを目的として, 登熟期間におけるコムギの子実, 穂, 稈および葉身の乾物重および糖分含有量(WSC)の推移を, 圃場条件下で栽培した品種ハルユタカの群落において, 連日の早朝と夕方に調査した. 前報で分類した4つの登熟相;(1)登熟初期, (2)登熟前期, (3)登熟後期および(4)登熟末期において, 調査した器宮乾物重の多くが直線的に増加あるいは減少したことから, その速度を開花後日数に対する乾物重の直線回帰式の係数で表し, 登熟相の違い, さらに日中と夜間との違いについて検討した. その結果, 全乾物重の増加速度は登熟相の進行にともない低下し, 光合成の停止する登熟末期ではほぼ0を示した. 子実重の増加速度は登熟後期で最も高い値を示し(60 mg pl-1 day-1), 稈の可溶性糖分は登熟初期(22 mg pl-1 day-1)および前期(11 mg pl-1 day-1)で増加し, 後期(-15 mg pl-1 day-1)および末期(-19 mg pl-1 day-1)で減少することが数値により示された. さらに, 子実重は登熟初期, 前期および末期では, 日中と夜間ともに同じ速度で増加するのに対して, 登熟後期では日中の増加速度が夜間の3倍になることが明かとなった(日中:45mg pl-1 day-1, 夜間:16mg pl-1 day-1). 一方, 稈のWSCは登熟前期において日中に増加して稈に蓄積するものの, 夜間は減少して子実へと転流することが明かとなった(日中:18 mg pl-1 day-1, 夜間:-8 mg pl-1 day-1).