抄録
水田土壌の特性と環境要因から土壌窒素の無機化動向を説明することは, 水田の持つ水稲生産ポテンシャルの評価だけでなく, 合理的な施肥法の確立のために重要である. そこで本研究では, 湛水前の土壌乾燥程度と湛水期間中の温度から土壌窒素の無機化量を推定するモデルを提案した. 京都大学実験水田(沖積, SL)の作土から採取したサンプルを15, 20, 25, 30℃の4温度条件下で湿潤細土, 風乾細土について恒温湛水培養を行った. また, 鳥山らに従い, 湛水前の土壌水分を8段階設定し, 窒素無機化に及ぼす湛水前の含水比の影響を調査した. 湿潤土のN無機化量(NW)は時間に対し直線的に増加したのに対し, 乾土効果(ND)は頭打ちを示し, その上限値はいずれの温度条件においても同様であった. これらの結果に基づき, N無機化速度は, 以下のように表すことができる : dN/dt=dNW/dt+dND/dt dNW/dt=KW dND/dt=KDNOexp(-KDt) ここで, tは時間(日), NOは湛水前の土壌含水比, θの関数 : NO=7.171-0.660θ+0.0150θ2, θ≦19.56% NO=0 θ>19.56% として表される. また, KW, KDは温度の関数, アレニウスの式で近似され, その活性化エネルギーはそれぞれ24,803および14,058cal・mol-1であった. この式より求めたN無機化量は実測値とよく適合することがわかった.