抄録
東京大学農学部構内の圃場において慣行栽培したコムギ品種農林61号の種子根および節根の生育の様相を, 分枝根の形成にも着目しながら定量的に検討した. 1991年11月5日に条間30cm, 200粒/m2の密度で播種し, 1992年5月27日の刈取りまでの約200日間に約2週間おきに合計14回, 改良モノリス法により, 土壌表面から深さ30cmまでの部分に分布する根系を, 茎葉部とともに採取した. このようにして採取した材料を個体ごとに分離したのち, 平均的な生育を示した3個体を選び出した. この3個体のすべての種子根および節根を出現位置別に同定し, 根数を記録したのち, それぞれの根軸長および分枝根を含む総根長を測定した. 種子根の総根長は播種後120日目ころ最大になり, それ以後減少したが, 節根の総根長はこの頃から増加が顕著となり, 登熟期間中もほとんど減少しなかった. また, 種子根, とくに初生種子根において分枝根の形成が盛んで, 分枝指数 (=総分枝根長/総根軸長)は播種後120日目ころ最高となり, それ以後低下した. 節根は上位の節から出根するものほど分枝指数が小さく, とくに分棄から出現した節根は, ほとんど分枝していなかった. 以上のことから, 今回対象とした土壌表層に分布する根に限ってではあるが, 種子根は本数は少ないが分枝根形成が盛んなため, 総根長に占める割合が比較的高く, とくに生育前・中期においては根系のかなりの部分を占めていること, また節根は, 分枝根形成よりむしろ根数の増加に伴って生育後期で相対的な割合が高くなることが明らかとなった.