抄録
イネの体はファイトマーという形態的単位 (1枚の葉と1つの分げつ芽を側生する茎の断片) が積み重なったものと理解できる. 根系の骨格を構成する1次根は, このファイトマーの茎部分から出現するため, ファイトマーの数や大きさが根系形態にも影響することが予想される. そこで, 本研究では個体全体の生育の中で根系形成を理解する目的で,ファイトマーの形成に着目しながら, とくに根量の品種間差を解析し, 考察を行なった.根系形態が異なる水稲品種IR 36, Lemont, コシヒカリをポット栽培し, 播種後60日目まで経時的に, すべての茎の葉齢のデータをもとに個体全体を構成している総ファイトマー数, および1次根を出根している出根ファイトマー数, また, 茎葉部の乾物重を総ファイトマー数で割って「ファイトマーの大きさ」を推定した. さらに, 根量の指標として総根長と総根重, 根量の構成要素として総1次根数と「平均根長」を調査した. 根量はいずれの品種も生育とともに曲線的に増加したが, 出根ファイトマー数との間には品種固有の直線的な関係が認められた. 出根ファイトマー数と総1次根数との間には3品種に共通した正の相関関係が, まだ, 「ファイトマーの大きさ」と「平均根長」との間にも正の相関関係が認められた. これらの結果から, 茎葉部の形態を規定すると考えられるファイトマーの数と大きさが, 1次根の数と大きさを介して根系の形態にも影響を及ぼしていること, およびファイトマーの数および大きさに現われる品種の特徴が, 根系形質の特徴をもたらしていることが示唆された.