抄録
水稲の耐倒伏性に関与する程基部の挫折強度が著しく異なる中国117号およびコシヒカリとを用いて, 耐倒伏性に関与する形質が後代にどのように分離し遺伝する特徴があるかを検討した. F1は両親に比べ稈長が長く地上部が重かったが, 稈の挫折時モーメントが大きいため倒伏しなかった. F1の稈の挫折時モーメントが大きいのは, 中国117号の断面係数が大きい性質とコシヒカリの曲げ応力の大きい性質が組合さった結果であった. 断面係数についてのF2 150個体の頻度分布は3頂分布を示し, この形質は単一遺伝子ではなく2つ以上の遺伝子が関与している可能性があること, また遺伝率は0.69とやや大きく, 断面係数は選抜の可能性のある形質と考えられた. F2における断面係数と曲げ応力との間の遣伝相関係数は-0.70で, 両方の形質を育種目標として選抜することは困難であると考えられた. しかしながら, F2個体の中には, 中国117号と同様に断面係数が大きく, 曲げ応力も中国117号より約1.5倍大きい結果, 稈の挫折時モーメントが著しく大きい個体が3個体見い出された. さらに, これらの個体から得たF3個体は, 断面係数および曲げ応力の大きい性質を備えていた. 以上の結果から, 挫折強度の大きい品種・系統との交配を通じて, 断面係数および曲げ応力がともに大きく, 耐倒伏性の大きい性質を付与できる可能性のあることが示唆された.