日本作物学会紀事
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炊飯に伴う米粒中のデンプン粒の糊化過程に関する走査電子顕微鏡観察
高橋 一典松田 智明新田 洋司
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2001 年 70 巻 1 号 p. 47-53

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抄録

炊飯に伴うデンプンの糊化についての基礎知見を得るため,1998年産コシヒカリ,きらら397およびタイ米(インド型長粒種,単一銘柄)を供試して,米粒中のデンプン粒の糊化過程を経時的な微細構造の変化として走査電子顕微鏡により詳細に追跡した.炊飯開始後10分(炊飯釜内中央部の温度45.0℃)でコシヒカリではアミ口プラスト包膜の表面から分解が開始された.炊飯開始後15分(51.3℃)には,炊飯開始前に長径で約3~4μmであったデンプン粒は約4.5~5μmに膨潤し,精白米の第1層目の胚乳細胞内のデンプン粒で,表面から繊維状の糊が伸展した.網目状の構造はデンプン粒の表面から内部に向かって形成が進行した.アミ口プラスト内のデンプン粒は互いに網目状構造で融合し,一体化して多孔質の糊となり不定形化した.炊飯開始後20分(98.5℃)には,コシヒカリの米粒の表層部では,きらら397やタイ米と比較して網目の拡大した微細骨格構造が形成された.アミ口プラスト単位で一体化した不定形の糊状構造は,炊飯開始後25分(98.5℃)には,さらに胚乳細胞を単位として一体化するのが認められた.炊飯に伴うデンプン粒の膨潤と網目状構造および不定型の糊状構造の形成は,米粒の表層部ほど早く始まり中央部では遅かった.網目の大きさは米粒の表層部で大型化し,中央部では小型であった.本観察からデンプン粒の糊化とは「緻密」な構造体であるデンプン粒が,その主成分であるアミロペクチンの分子内に氷分子を取り込み,膨潤し,分子密度の低下した構造体に変化することであると考えられた.

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